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第9章 溝2

 その言葉を耳にするとエリザさんは、顔を俯かせた。 「ルキウスはビックゴブリンを倒し、その上子分のゴブリンたちを一掃した。だからオレがギルドの推薦をして、このパーティに加入させる。それだけだ」  僕はマックスさんに手を引いてもらい、立ち上がらせてもらった。 (すまない、嫌な思いをさせたな)とマックスさんが心の中で話しかける。  なぜか彼はつらそうな顔をして僕の顔をジッと見つめた。 (いいえ、大丈夫ですよ。僕よりもエリザさんのことを気にかけてあげてください)  彼は黙り込んでしまったエリザさんの様子が気になり、彼女の方へと目線をやる。 「あの――」  話しかけると彼女は顔を上げ、侮蔑の眼差しを向けてきた。 「あたしは、あんたを助けたことを後悔している。おかげでエドワード王子を始末する機会を失った」  そうしてエリザさんは(きびす)を返した。  僕をエドワード様から助けたせいで、任務を遂行できなくなったエリザさん。彼女がどんな生い立ちで、どうしてギルドに加入したのか、なぜ剣闘士でいるのかはわからない。それでも僕への態度やマックスさんの言葉から貴族を憎んでいることだけは、読み取れる。  そんな彼女の言葉が、矢の如く僕の胸を貫いた。  ――全部あんたのせいよ。  そうじゃないと言い切れたら、どんなによかっただろう。エリザさんは間違っていない。むしろ的を得ている。  ズキズキと痛みを訴える胸に手をあてる。  ビックゴブリンを倒す際にできた傷は、クロウリー先生の魔法ですべて治った。怪我をしたのが嘘みたいに傷あとが消えている。  だけど――エドワード様とノエル様から受けた仕打ちによる心の傷や胸の痛み、大切な人を失ったときの喪失感は、なくならなかった。

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