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第10章 エラー1

 エリザさんは、メリーさんの手を振り切り、間合いを取る。  信じられないという眼差しでメリーさんが、エリザさんのことを見つめる。  彼女は敵を前にしたときのような鋭い目つきでメリーさんを憎々しげに凝視した。 「あんた、()()? あたしに触らないでよ」  僕は彼女の発言に驚き、戸惑った。  それはクロウリー先生とマックスさんも同じ。ふたりはメリーさんのことを忘れてしまっているエリザさんに、動揺している。  そういえばサギーさんはどうしたんだろう?  なぜか嫌な予感がして、後ろを振り返る。そこには悪人面したサギーさんがいた。。 「フハハハ、飛んで火に入る夏の虫。()()()()を生け捕りにすれば、この先、悠々自適に過ごせるわい!」  “悪役令嬢”?  待って。僕はどこかで似たような単語を聞いたことがある。ノエル様が僕を“悪役令息”って……。  クロウリー先生の苦しそうな呻き声と杖を床に落とした音がする。クロウリー先生の方へ目線をやり、僕は仰天せずにはいられなかった。  床に伏したクロウリー先生の手足が透明になり、消えかけているのだ。イワーク洞窟で魔法を使い、杖で次々と暗殺者を薙ぎ払っていた頑強な魔法使いの姿はそこにない。 「ま、マックス! これはいったい――」と叫んだメリーさんも床に膝をついた。彼の手足もクロウリー先生と同様に透明になっていく。クロウリー先生よりも早いスピードで、身体全体が透明になって消えかけている! 「どうなっているんですか!? 何が起こって……?」 「魔王の力だ」とマックスさんが憎々しげな様子で、言葉を吐き出した。 「だれかが魔王の力を行使しているやつがいる」 「そんな馬鹿な! だって、」  だって魔王は千年前に勇者たちが封印した。  前回も、前々回もノエル様やエドワード様が暴走しただけで、、魔王が復活したなんて話は耳にしなかった。もしも復活していたら、フェアリーランド王国は大騒ぎになり、兄様やピーターは魔王討伐のために出兵していた。  はっと顔を上げたマックスさんは「歴史が変わったのか?」と小声で言う。 「ルキウスは最初も、その次も英雄をさがすのに外の世界に足を踏み入れなかった。王宮からは一歩も外へ出ず、エドワード王子と別れる選択をしなかった。そうだろ?」  どこか後ろめたく感じながら、おずおずと返事をする。 「でも、神から最後のチャンスをもらったおまえは、エドワード王子と別れ、王宮にいる道を閉ざされて、外へ行かざるを得なくなったんだ。そして英雄を見つけるために、オレたちですら刃が立たないビックゴブリンを遂には倒しちまった」 「つまり――僕のせいで、本来なら目覚めることのなかった魔王が目を覚まし、皆さんの命が――未来が危ないということですか!?」  勇者一行が倒した、死と殺戮、命あるものの生き血を求めた魔王。  勇者がこの世に生を受け、魔王を封印するまで、三世紀にも及ぶ長い戦いが続いた。人間、エルフ、ドワーフ、精霊、神、魔物、悪魔――何億という命が儚く散った大戦争。  その悪夢は、世界各国で今もなお語り継がれている。  エドワード様やノエル様という恐ろしい脅威から大切な人たちを守るために、僕は自ら動いた。  それなのに、今度は魔王が復活する……?  「と、とにかく早く医者を! 早く魔法医を呼ばないと……エリザさん!」

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