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第10章 エラー2

 僕はギョッとしてしまう。  気がつくとエリザさんは、貴族の令嬢のように華やかなドレスを身に纏っていた。剣闘士としての面影はなく、王宮で女官をしていたときの雰囲気もない。どこか高飛車で気位の高そうな女性が、鳥の羽をふんだんに使った扇を真っ赤な口紅を塗った口元へあてがう。  その後ろには、蜃気楼のような付き人や従者たちの姿が、徐々にくっきりと輪郭を帯びてきている。 「まあ、名前も名乗らず、わたくしに話しかけるなんて――あなた、失礼じゃありませんこと?」  目をすがめたエリザさんに呆然とする。 「ぼうっとするな、ルキウス! 祈って『過去』の女神を呼べ!」  苦しみ続けるクロウリー先生と、死人のように目を閉じたメリーさんを介抱しているマックスさんの声に、意識を取り戻す。 「そうはさせんわい」  ガシャン! と金属音がしたかと思うとマックスさんたちは魔封じの鳥かごに閉じ込められてしまう。 「サギー、何をする!?」 「うるさい、儂に逆らうな!」  マックスさんに大声で叫んだサギーさんが、エリザさんの投げた槍を器用に取り外し、手に持つ。  僕はサギーさんに指を差される。 「けがらわしいクライン家の悪魔が、なぜここにおる!」 「なぜって、ギルドに加入するために……」 「貴様は今、この場で登場する人間ではなかろう! 王都へ帰るがいい!」  正気を失っているサギーさんは、僕の言葉を最後まで聞かずに、おかしなことを口にする。  足元に転移魔法の魔法陣が描かれ、青白く発光する。急いで『過去』の女神様に祈りを捧げるものの彼女は姿を現さない。 「フハハハ、まずは手始めに悪役令嬢の方から始末するとしよう。そうすれば儂の未来も明るいというもの」   そうして彼は、槍先をエリザさんに向けた。  エリザさんは、マックスさんたち四人の中で、一番、敏捷性がある。僕がエドワード様に殴られていたときも、イワーク洞窟で暗殺者たちに足の腱を着られそうになったときも真っ先に僕を助けてくれた。  恐ろしい敵に遭遇しても、(ひる)むことなく果敢に挑んでいた。  しかし、様子のおかしいエリザさんは、一度も戦いをしたことのない貴婦人のように甲高い声で叫び、腰を抜かしてしまった。  そうしてサギーさんは、エリザさんに槍を投げつけた。  瞬間、部屋の中は目も(くら)むほどの強い閃光で真っ白になる。

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