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第11章 暗雲が立ち込める1

   * 「――ルキウス! 起きろ、起きるんだ! 戻ってこい!」  目を開ければ、マックスさんの顔が目の前に合った。  なぜか彼は必死の形相で僕を凝視していた。彼に抱きしめられているのは、どうして?   彼のはちみつのような瞳を見つめる。  「マックスさん……」 「無理して喋るな!」 「クロウリー先生?」  はっとして僕は飛び起きようとして、ひどい痛みに襲われる。  身体中、血まみれだ。先ほどの異空間で、ノエル様の攻撃を受けたところと同じ場所に怪我をしている。 「マックスさん……」 「ルキウス!」 「クロウリー先生や、メリーさんは、大丈夫ですか? エリザさんは怪我をしていませんか……!?」 「あたしなら平気……自分の心配をしなさいよ」  エリザさんの弱々しい声がする。  顔を右横に向ければ、いつものタンクトップに革のジャケット、ショートパンツ姿の彼女がいた。あぐらをかいた彼女は額に手をあてていた。顔色が真っ青で、唇も青い。 「失態を晒したな、申し訳ない。ルキウス殿」 「クロウリー先生! よかった……元に戻られたのですね」  エリザさんと同じように顔色の悪いクロウリー先生が僕の隣で跪く。  クロウリー先生が、僕の怪我をした患部の近くに杖をかざし、治癒魔法をかける。 「儂ならこの通り、ピンピンしておるぞ」 「安心しました」 「これは闇の魔術を受けた傷じゃな」 「ええ、そうです」 「――以前話していた偽の神子とやらに、やられた傷か?」  僕は、ノエル様の名前を口に出すのも嫌で、首を縦に振って答えた。 「そうか。じゃが、術を使っているやつは未熟な腕をしておるようじゃ。これなら、儂でも治せる」 「あの、メリーさんは……」  僕は、壁に凭れかかり、苦しそうに胸を上下させているメリーさんへ視線をやる。 「儂とエリザは問題ないが、メリーの具合がちいとばかし悪い。このままでは、やつは戦闘に参加できん」 「そんな……」 「安心せい。そこまでひどいものではない。魔法医に診せて三日もすれば、元通りじゃ」  クロウリー先生の言葉に一安心する。治療が終わり、僕は彼にお礼を告げ、立ち上がる。 「少しばかし、隣国のミステリアス王国へ向かわねばならんがのう。その前にやるべきことを済ませんと。のう、マックス」  具合の悪そうなメリーさんの肩を抱き、エリザさんとマックスさんが起こした。 「ああ、そうだな。エリザ」 「ええ、わかっているわ」  マックスさんの言葉に返事をしたエリザさんは、メリーさんのことをマックスさんに頼み、床に落ちていた槍を手に取った。そのまま受付の前で伸びているサギーさんのところへ、ゆっくり歩いていく。 「マックス、すまん。俺が足手まといになっているな」とメリーさんがマックスさんに申し訳なさそうに謝る。 「気にするな、おまえのせいじゃねえよ」とマックスさんは気軽に答えた。 「サギー、サギー、起きなさいよ」とエリザさんが槍のお尻部分である石突で、サギーさんの腕を突く。 「……はて、これはエリザ嬢ではありませんか」  ふわあと大欠伸をしてサギーさんが起き上がった。 「サギー、ビックゴブリンを倒してきたぞ」  マックスさんが一言告げると「ええーっ!」と彼は飛び上がって狂喜乱舞した。 「それは本当ですか!? 実にありがたいですね! さすがはマックスさん! いやー、儂は信じていましたよ! いつかマックスさたちが、ビックゴブリンを倒すって」  先ほどまでの、棘のある雰囲気はどこかへ鳴りを潜め、のほほんとしているサギーさんの姿を目にして、ドッと疲れが出る。それは、僕以外の四人も同じようで――「サギー、ごめんなさいね。先に謝っておくわ」 「はい、なんです?」 「一発殴らせて」  そう言ったエリザさんの利き手でない右の拳が、サギーさんの顔の中心にクリーンヒットした。 「それでは、ルキウス・クライン様のギルド加入及びマクシミリアン・アルティマトゥーレ様のパーティへ編入手続きを終えます。お間違いありませんか?」  赤くなっているサギーさんの鷲鼻をあまり視界に入れないようにしながら、僕は「はい」と返事をする。  するとサギーさんは机の上に置いてあった承認印を押した。 「本当によろしいんですか? クライン家のお坊ちゃまに何かあったりしたら、儂のクビが飛ぶんでは……」  冷や汗をかき、萎縮しているサギーさんに対して「そのときはオレが責任を取る」とマックスさんが、きっぱり答えた。

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