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第11章 暗雲が立ち込める4

「ここから西はちょうど王宮のある場所だしな。ルキウスの言っていることは、間違いないだろ」 「しかし、なんでクライン様の言っていた時期よりも早く出現なすったんですかね? 歴史を変える必要っていうのも今いち必要なのか、わからんですし」  うーんと唸り声をあげて、サギーさんが頭を悩ませていた。 「魔王復活を目論む悪魔たちにとって、偽の神子はフェアリーランド王国の神々の力が及ばない貴重な存在だ。偽の神子は、自分の描いた未来がいつまでも訪れないことに違和感を覚えてルキウスが『過去』の女神の力を借りて時間を巻き戻したことに気づき、悪魔の力を借りて時間を巻き戻したんだろう。  本来なら王宮でエドワード王子の恋人として過ごすはずだったルキウスがエドワード王子に別れを告げ、英雄をさがすためにビックゴブリンを倒した。そのせいで偽の神子の計画が大幅に狂い、本来人々が歩むはずだった人生や、歴史自体を変える必要が生じたんじゃないか?」  マックスさんの話に僕らは何も言えなくなる。  一番最初に口を開いたのはエリザさんだった。 「ふざけんじゃないわよ……そんなことになるくらいなら悪魔に操られた方がよっぽどマシよ!」 「何を言っているんだ、エリザ。ルキウス殿が誤解するようなことを口にするな」とメリーさんが立ち上がる。  足を引きずって覚束ない足取りで歩き、エリザさんの両手を手に取った。 「だって、悪魔に操られるのは無意識下でも自分が悪魔に洗脳されているってわかる! あれは――根底から自分を無理やり変えられるような気持ちの悪いものだったわ。お父様やお母様に会えたとしても、メリーやおじい様を失うんだったら、あたしは令嬢になんかなりたくない……まして悪役令嬢だなんて真っ平ごめんよ!」 「そうだな」とマックスさんが頷いた。 「オレも豪華なドレスを着て、偉そうにふんぞり返っているエリザを目にするのは御免こうむりたい。先生やメリーのいない世界なんて、つまらねえし」  マックスさんがニッと笑う姿を目にしてメリーさんが困ったように(まなじり)を下げた。  彼らが家族のように仲のいいことは、これまでの話や行動を見ていればわかる。  魔王が復活して女神様たちの力が弱まっている今、なおさら僕は英雄を見つけることが、どれほど重要なことかをあらためて知る。自分がどれほど重大な使命を負っているのかを感じ、身が引き締まる思いになった。  偽の神子とエドワード様をどうにかして、魔王の力が世界に及ばない状態にする。  僕は自分の杖をホルダーから取り出して眺める。  偽の神子に喚ばれた亜空間では杖が見当たらなかった。そのせいで防戦すらできず、ただ怪我を負い、無様に逃げることしかできなかった。  エリザさんの言う通りだ。  僕は召喚魔法に頼りきり。杖がなければ魔法と魔術をまともに使えないと来た。  魔法の使えないエリザさんは武術と槍の使い方を心得ている。  魔術師であるクロウリー先生は魔法と魔術のエキスパートで同時に杖を武器に、敵と応戦していた。  トレジャーハンターであるメリーさんは転移魔法を使い、飛び道具と両手剣で戦う。  杖がなくちゃ何もできない。召喚魔法を使う度に倒れている。  そんな情けない自分が悔しい。  今まで父様や母様、オレインたちに守られ、甘やかされてきた。学院でも兄様やビル、ピーターが守ってくれた。王宮ではスチュワート様たちによくしてもらった。  だから魔法や魔術をまともに使えなくてもよかった。身体を鍛えて武術を習う必要もなかった。  僕自身必要性を感じなかった。  不得意なことがあるのは当たり前だ。完璧超人なわけじゃないんだから。  だけど、苦手なことがあるからと他の努力次第でできることまで、やらないのはただの怠慢だ。  何ができるかわからない。  それなら何ができるかを、わかるようにすればいい。  もっと強くなるんだ。  エドワード様と偽の神子を止められる力を持てるくらいに。

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