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第11章 帰路につく1
「とりあえず一旦出直すぞ。この先、魔王の手先の来襲で休めなくなる可能性が高い。メリーの休養はもちろん、今のうちにエリザと先生も力を蓄えてくれ」
「して、その間、お主はどうするつもりじゃ?」
クロウリー先生に話を振られたマックスさんが僕の方をジッと見る。ずんずん歩いてきて隣に来たかと思うとグイと肩を抱かれる。
「オレはこのままクライン家に挨拶へ向かう」
「なんですかそれ! 必要ありますか!?」
僕はマックスさんが僕の家に向かうと聞いて、仰天せずにはいられなかった。
父様にギルド入りした話なんかしたら絶対に反対されるし、怒られるのは目に見えていたからだ。
「とうぜん、必要も必要だろ」とマックスさんが僕の目を覗き込む。「仮にも血族の子息がギルドへ加入したんだ。おまえにもしものことがあったら登録許可を出したサギーは、たまったもんじゃねえ。パーティのリーダーであるオレがルキウスの親父さんや、おふくろさんに挨拶をするのは礼儀だし、道理だろ?」
「ん?」と小首を傾げて笑う姿もかっこいいな、なんて思うあたり僕は重症だ。
心臓が鼓動を打ち、耳や頬が熱くなる。
「それはそうですが……」と足元を見ていれば、さらに顔を寄せてくる。
「なんだ、道中オレとふたりきりになるのは、いやか? こうやってオレに触れられるのも、気持ち悪い?」
「いいえ、違います!」
即座に力を入れて返答する。顔を上げれば、口づけしてしまいそうなくらい近くにマックスさんの顔があった。
すぐに顔を横に向けるものの僕の顔が赤くなっていることを、マックスさんは気づいただろう。
「へえ……そうか、そりゃよかった」
にっと楽しげに笑ったか思うと彼は、サギーさんとメリーさんのところへ行ってしまった。
会って間もない人が気になるなんて、どうかしている! この人も、どうして人に勘違いをさせるような行動ばかりするんだろう? 僕が同性愛者であることはエドワード様でわかっているはず。
このまま戦闘をするとき以外もマックスさんのそばにいて、言葉を交わしたり、スキンシップをとることをし続けていたら、確実に彼を好きになってしまう。
多分、マックスさんの恋愛対象から僕は大きく外れているんだ。
エリザさんをかわいがる延長線上なんだと思う。
嫌われてはいない。それどころか僕のような矮小な人間を賛辞して信頼し、ビックゴブリンの件を任せてくれた。パーティの仲間に引き入れるくらいには気に入ってもらえている。
でも反応をからかわれているようで、少し傷つく。
ピーターと友だちになる前、まだ幼い頃、クライン家をよく思わない貴族の子どもたちの間では、僕を相手にした“恋人ごっこ”が流行っていた。
誰が一番僕に気に入られるのが早いかを競うゲーム。デートをしたり、手を繋いだり、ハグをする。
ほとんどの人間は僕と言葉を交わすところで断念した。敵であるクライン家の子どもと親しくしているのを親に知られたら、大目玉を食らうからだ。
だけどエドワード様の元・ご学友は違った。
彼は最初ピーターのように優しく接してくれたのだ。友だちと言われ、有頂天になった僕は彼に恋をした。
彼に告白をして受け入れてもらった。キスをしろと振られ、顔を近づけたら――ネタばらし。
「気持ち悪い」と罵られ、「ルキウスは同性愛者だ」と大声で騒ぎ立てられた。貴族のご令嬢たちの前で醜態を晒すはめになった。なんとも幼稚な話だ。
思えばエドワード様は彼から僕の話を聞いていたのだろう。だからエドワード様は僕の喜ぶポイントがよくわかっていた。
マックスさんは彼らのように人の恋心を弄ぶ人間ではないと思う。
それでも彼を好きになり、この気持ちに気づかれたら、また「気持ち悪い」と言われてしまうのだろうか?
そうしたら僕は英雄をさがすどころではなくなり、せっかく入れていただいたパーティからも抜けるしかない。マックスさんだけでなく、エリザさんや、メリーさん、クロウリー先生からも侮蔑の眼差しを向けられるのだろうか?
急に胸が痛み出し、全身から血の気が引くのを感じた。
早く英雄を見つけなくてはいけない危機的な状況で恋愛ごとを考えるなんて、不謹慎極まりない。頭を横に振り、マックスさんたちに話しかける。
「失礼かもしれませんが、マックスさんおひとりで僕の実家まで行くというのは、あまりにも無謀な話ではないでしょうか?」
するとマックスさんを除いた人たちが顔を見合わせる。
「僕はこの通り召喚魔法以外、てんで駄目です。治癒や回復魔法も使えますが簡単なものだけです。エリザさんやメリーさんのように戦闘に特化していたません。マックスさんに苦労をかけてしまいます」
「それは違うぞルキウス殿」
クロウリー先生に肩を叩かれる。
「むしろマックス単独の方がいいじゃろう。儂らがいるとマックスは力を出せんからな」
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