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第11章 帰路につく2

 どういうことかクロウリー先生に尋ねようと口を開きかける。  そこでメリーさんが「そうだな」とクロウリー先生の言葉に賛同する。「貴殿を二度も救ったのが自分ではなくエリザだということを、マックスは地味に気にしているからな」 「おい、メリー……」とマックスさんが頭の後ろを困ったように搔く。 「貴殿は不思議に思ったり、戸惑うかもしれないだろうが、どうかマックスに名誉挽回の機会を与えてくれないだろうか?」  メリーさんの言葉に戸惑っているとふたたびマックスさんに肩を抱かれ、外へ出るよう促される。 「ルキウス、メリーの言っていることは気にしなくていいからな! 早くクライン家に向かおう」 「あっ、あの――」 「まったく、あんたこそいったい何歳なのよ!?」とエリザさんの茶々が入る。 「まるでティーンエイジャーみたい! あたしがメリーと結婚の話になるまで、あーだこーだとうるさくアドバイスしてきた癖に、自分のことになると駄目駄目ね!」 「うるさい、ほっとけ!」  顔を赤くしたマックスさんが、エリザさんに向かってがなり立てる。 「自分の身長よりもある馬鹿デカイ大剣を背負って、ぶん回しているから機動力が遅くなるのよ」  僕の肩を抱いていない方の手で、マックスさんが大剣を指差した。 「これは唯一父上がオレに残してくれた形見なんだぞ!? おいそれと変えられるわけがないだろ!」  皆さんがガヤガヤしているとサギーさんが「なるほど、そういうことですか!」と両手を叩いた。「クライン様、この方は――」  何かを喋りかけたサギーさんの口を、半ば強引にエリザさんが塞いだ。 「よけいなことを言わなくていい。あんたは黙ってなさい」  サギーさんが両手両足をジタバタさせているとマックスさんが苦笑し、口の前で人差し指を立てた。  するとサギーさんも暴れるのをやめ、エリザさんもサギーさんの口を塞いでいた手をパッと放す。  普段厳しい顔つきをしているクロウリー先生が、めずらしく愉快そうに声を立てて笑った。 「時が経てばいずれ、否が応でもいマックスが貴殿に話すじゃろう」  マックスさんが泡を食いながら、クロウリー先生に呼びかける。 「存外ルキウス殿の方が早く気づくやもしれんぞ、マックス。何しろお主、いろんな意味で隠し通せておらぬ。駄々漏れじゃ」と茶目っ気たっぷりにウインクをする。 「ルキウス殿、貴殿は何も心配せず、マックスを信じればいい」とメリーさんが楽しそうに笑みを浮かべた。 「このような切羽詰まった状況下で気楽なことをと思うかもしれないが、大丈夫だ。我々は魔王や偽の神子には屈しない。必ず勝利を勝ち取ろう」 「そうね、偽の神子とかいう生意気なやつを、ぶっ倒そうじゃないの。だけど勘違いしないでよね? 一応、あんたのことを認めてあげただけなんだから!」  あれだけ僕を認めないと言っていたエリザさんが、協力的な発言をしたことに、僕はポカンと口を開けてしまう。  エリザさんは長い髪を手で後ろにやりながらツンとした態度をとる。 「すぐに逃げ出すかと思ったけど、ちゃんとビックゴブリンも倒して、ギルドにも加入した。口からでまかせを言った訳じゃなく有言実行したんだから、少しは認めてあげなくもないわ」 「エリザさん」 「調子に乗らないで。あんたがヘッポコ召喚師であることに変わりはないんだから」  その言葉にウッとなり、「面目ないです」と謝る。 「杖がない状態でも戦えたり、自分の身を守れないと、あんたが一番困るのよ。偽の神子やエドワード王子の暗殺部隊に負けないくらいの力をつけなさい」 「……ありがとうございます!」 「ギルドの加入、おめでとう。ルキウス殿、これからは仲間としてよろしく頼む」 「はい」 「それでは、また後ほど会おう」  そうしてクロウリー先生が転移魔法を詠唱し、三人は姿を消した。  窓から伝書鳩が飛んでくる。サギーさんは手紙を見て目を剥いた。 「申し訳ありませんが、緊急会議の話が入ったので、儂もお暇させていただきます。何かあった際はすぐにマックスさんに連絡するので!」と叫んだかと思うと手紙の中に吸い込まれ、手紙ごと消えてしまった。  急にふたりきり。なんだかソワソワする。  僕はマックスさんの顔をなぜか見ることができず、横を向いた。 「その、お離しいただけませんか、マックスさん。この状態だと少し歩きにくいので」 「えっ、ああ、悪い」とマックスさんが肩から手を退ける。 「ひとまず外に出よう」 「そうですね、僕の愛馬であるフロレンスも首を長くして待っているので」  外は天気がよかった。青く澄んだ空は美しく草原を吹くそよ風が心地よい。こんな日はフロレンスと一緒にどこまでも駆けて行きたくなる。  魔王が復活したなんて、まるで嘘みたいだ。  僕はフロレンスに長く待たせてしまったことを謝り、彼女を厩から出す。  フロレンスは警戒心をあらわにして、マックスさんを白い目で見た。 「それで、いったいどのようにして僕の自宅まで戻るのですか? ここから王都まで一週間ほどは、かかります。フロレンスがマックスさんを乗せて王都の方まで走るとなると、倍近くの時間がかかりますよ」  するとマックスさんが声をあげて笑った。

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