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第11章 帰路につく3
「フロレンスには乗らねえよ。オレと大剣を乗せたら彼女が潰れちまう!」
「では、どうするのですか?」
「こうするんだよ」
ゴゴゴと地鳴りがする。
なんだろう?
辺りを見回していると僕らの眼の前の地面がプクリとふくらみ、何かが土の中から姿を現す。
魔物、または魔獣だろうかと戦闘態勢をとるもののマックスさんは涼しい顔をしている。
「これは、もしかして――飛空艇ですか!?」
フェアリーランド王国と犬猿の仲であるリカバリー王国が空飛ぶ機械を作ったという話を耳にした。まだ一度も見たことはないが、海兵隊や海賊の船のように大きく、丸いプロペラなるものがついているらしい。
「いーや。これは船だ。魔法の船」
「魔法の船?」
僕が訊き返すとマックスさんは船の木肌に手を触れた。
「ああ、太古の神が創ったものだ。空を飛び、海を渡り、地の中を進む不思議な力を持った古い船。これならフロレンスも余裕で乗れるし、王都まで一日とかからずに着く。さっ、乗れよ」
すると船の出入り口が勝手に開き、木でできた階段が現れる。
「どうして、このようなものを持っているんですか? あなたはいったい……」
「とりあえず中で話そうぜ。サギーのところにいたら、いつまで経っても家に帰り着かねえ」
そうしてマックスさんが船の中に入っていった。
渋々僕とフロレンスは船の中へ足を踏み込んだ。
古い船という割には外観も内観も美しい。じつに簡素な作りだが、職人でない僕でも整備が行き届いているのがよくわかる。貴族の館一棟ほどの大きさがある船なのにオールもマストも着いておらず、船員もいない。いったいどうやって動かすのだろう?
ふわりと浮遊感を味わう。
フロレンスが不機嫌そうにブルルルと鳴いた。
ゆっくりと船がひとりでに浮き上がった! しかも、どんどん上昇していく。
「それじゃあ空をひとっ飛びするか。土の中を潜る方が安全だが、空の旅の方が乙だ。地上の状態や空飛ぶ魔物、魔獣、悪魔たちの状況もわかるからな」
「あ、あのマックスさん……」と僕は震える声で彼に話しかける。
「なんだ、どうした?」
「とても怖いんですが……この乗り物……」
ガタガタ膝が笑う。
だって大鷲やドラゴンの背に乗るのとは訳が違う。あれは子どもの頃からやってきたことだから慣れている。それに大鷲やドラゴンが攻撃を受けて気を失ったり、死なない限り、彼らが安全に乗せてくれることがわかっている。何かあっても彼らとコミュケーションを取れるし、彼らの羽毛や背の鱗を摑んでいるから安心だ。旋回しても落とされないし、落ちてもすぐに拾ってくれる。
でも木造でできた船が空を飛ぶなんて信じられない。加工された机や椅子、スプーンとなった植物の声は僕には聞こえない。第一、空飛ぶ船に乗るのが初めてだから、よけいに怖い。
途中で落ちてしまはないか、魔物や魔獣、悪魔とぶつかったりしないのか、もし襲われて火の魔法や炎の魔法をかけられたら、どうなるのだろうと恐怖する。
そもそも足をついている状態で、どこも摑むところがないのが恐ろしい。
「おいおい大丈夫かよ!?」
僕はフロレンスの手綱を必死に摑みながら、こちらにやってきたマックスさんの腕に摑まる。
「うおっ!」
「離さないでください! この船、ドラゴンのように猛スピードで飛ぶんですか!? 僕やフロレンスは紙のように吹き飛んでいったりしませんよね!」
こっちは、あまりの恐ろしさで涙目になっているのに、マックスさんは子どもみたいにケラケラ笑っている。
「笑わないでください。本当に怖いんですから!」
「だって大鷲の背に乗るために空中を飛んでサギーのド肝を抜いたり、戦闘慣れしてねえのに単身でビックゴブリンと対決したやつが、空飛ぶ船を怖がるとは思わなかったからさ!」
「マックスさん!」
強風が吹いたのだろうか? フワリと船が横揺れする。僕はマックスさんの腕を掴んでいた手を放し、バランスを崩して倒れかけてしまう。
「ルキウス!」
彼に手首を摑まれ、抱き寄せられる。マックスさんの香りや体温、胸の厚さや腕の力強さをダイレクトに感じた。
「こんなところで怪我をして、どうする!? 危ないだろ!」
「ご、ごめんなさい……」
僕は彼の胸に手をついて、すぐに離れようとする。だがマックスさんに手を取られ、握られてしまう。
「マックスさん?」
「これなら怖くないか?」
手を繋ぐなんて子どもじゃあるまいし……と思いながらも、彼の大きな手に包まれていると胸がときめく。同時に安心感を覚えた。
「たしかに少しは怖くないです。ですが、なぜ手を繋ぐ必要があるのですか? 僕は幼い子どもではありませんよ!」
「なんか摑んでいると安心できるんだろ? オレはこの船に乗り慣れている。オレに摑まれば少しは安心できるかと思ってな」
ふと彼の発言に違和感を覚えるが、あっと思う。
彼は読心術が得意だ。こちらが思っていることを読んだり、心の中で会話をすることができることを思い出す。
「それとも、この間みたいにお姫様抱っこでもしてやろうか?」
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