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第12章 久々の我が家1
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伝書鳩であらかじめオレインや、七匹のゴブリンたちに手紙を贈っておいたから、船が館の前の草原に降りても騒ぎにならずに済んだ。
ご機嫌な様子のフロレンスとマックスさんとともに魔法の船を降りる。
オレインと七匹のゴブリンが出迎えてくれた。
「ただいま」
「ルキウス様、よくぞご無事で……お帰りなさいませ」
ハンカチを手にしてオレインがおいおい泣きだした。
「大げさだよ、オレイン」
七匹のゴブリンも、ビックゴブリンとの戦いの傷を癒せたようで、みんなピンピンしている。
「その方がマックスさんですか?」
オレインが鼻をかみながら訊く。
マックスさんがオレインに対してお辞儀をした。
「初めまして、マクシミリアン・アルティマトゥーレと申します。どうぞお見知りおきを」
「どうも、ご丁寧に。執事長のオレインです」
複雑そうな顔をしたオレインが頭を下げる。
「ルキウス、ギルドに加入とはどういうことだ!?」
父様の怒鳴り声がして、僕は絶句した。
だってオレインや七匹のゴブリンたちに、父様を呼ばないよう頼んでおいたから。
「なんで父様がここに……」
「なんでじゃないだろう! 長期間家を留守にして、手紙の返事もろくにしない……子どもを心配しない親がどこの世界にいる!」
「僕は、今年で二十三になります! 定期的に手紙を送っていたし、『仕事が見つかったので心配しないでください』と伝えたではありませんか!」
「血族がギルドに入るなんて前代未聞だ! 許せる訳がないだろう!」
肩を怒らせ、顔を真っ赤にして怒っている父様が僕の方へズンズンやってくる。その後ろには母様やメイドたちの姿まである!
「オレイン、レッド、どうして!?」
僕はオレインと七匹のゴブリンの方へ顔を向ける。
オレインがあからさまに視線を外し、目を泳がせる。
レッドは膝の前で手を組み、目をつぶった。
「おわかりでしょう、ルキウス様。旦那様は王族の血を引くあなたが、ギルドに加入することをよく思っていないのです」
「旦那様は、ルキウス様にギルドをやめていただきたいと思っておいでです」
オレンジの言葉に、歯嚙みする。
「ビックゴブリンを倒すのにルキウス様もお怪我をしたし、心配にもなるだろ」「戦いに怪我はつきものだからな。人間は、すぐ死んじまうからな」
イエローとグリーンが他人事のように呑気に喋っている。
「ルキウス様は血族なんだから、館でのんびりお過ごしになってもいいのに……」
ぼそりとブルーが口にする。
インディゴがブルーの口をさっと塞いだ。
「おまえはよけいなことを言うな、黙っていろ!」
肩を落としているとパープルが僕の上着の裾をくいくいと引っ張る。子どものような笑みを浮かべた。
「大丈夫です、しっかりルキウス様のお気持ちを伝えれば、旦那様だってわかってくれます!」
そうして七匹のゴブリンたちは、ポンと姿を消してしまった。
「ルキウス!」
かっかしている父様を前にして僕は何も言えない。
「あら? あなたがマックスさん?」
えっ? と思い、僕と父様は母様の方を見た。
「クライン家の奥様ですね。初めまして、マクシミリアンです」
「ご丁寧に手紙をくださってありがとう。うちの息子がお世話になっているわね。箱入り息子だから世間知らずなところがあるの。ご迷惑をお掛けしていない?」
「いいえ、ルキウス殿には、こちらが助けられてばかりいます。変にスレたところもなく、勤務態度も真面目です。慣れないことも頑張ろうという気概があり、実際にこなしてしまうので大変うれしく思っております。旦那様と奥様が、ご子息を大切に育ててきたからでございます。これは、ご家庭の教育の賜物かと存じます」
「まあ、可愛いことを言うのね」
「顔に似合わず、ですがね。もちろん、おべっかなどではなく本心です。どうぞ気軽にマックスとお呼びください」
普段砕けた口調で喋っているマックスさんが、敬語口調で母様と喋っている。
なんだ敬語も話せるんだ、とこの場にそぐわないことをぼうっと思う。
「マリア! そのような下賤な輩 と口をきくな! 甘い言葉でルキウスを騙し、ギルドに入れた悪魔だぞ!」
「ラーメス、マックスさんに失礼ですよ! この方は、ルキウスの直属の上司なんですから」
母様が初対面であるはずのマックスさんと普通に会話をして、彼を擁護していることに僕と父様は唖 然 となる。
僕が家を留守にしていたことやギルドへ加入したことを一緒に叱ってくれると思っていた父様が、へなへなと力をなくす。
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