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第12章 久々の我が家2
「なぜ、そいつの肩を持つ? そもそも、どうしてそのように親しい!」
「そうですよ、母様! マックスさんが、とてもよい上司だとお伝えしましたが、なぜ気さくに話しているのです?」
隣で僕の話を耳にした父様が「ルキウス、マリアにだけ伝えていたとは、どういうことだ!?」と詰問してくるが、あえて無視した。
「だって、マックスさんからルキウスについてのお手紙をいただいていたんですもの」
僕と父様は、母様の発言に脱力する。
オレインやメイドたちの反応から見ても、どうやら本当のことらしい。
僕はマックスさんの目を見ながら心の中で、いつの間にそのようなことをしたのかと問う。
彼いわく、僕がギルドに加入した日から手紙を出しているという話だ。
(どうして母様に手紙を送ったのですか!?)
(だって、母親は子どもが大人になっても、子どもの先行きを心配するものだ。ましてやギルドは死と隣り合わせの仕事。オレはパーティのリーダーで、おまえの上司だからな、おまえの母上である奥様に説明をする義務がある)
(僕だって母様に手紙を送っていましたよ)
(簡略的に、だろ。それじゃ親は怒るだけだ。そもそも、おまえが寝込んだときにいろいろとアドバイスをくださったのも、奥様だ)
その話を訊いて、僕は思わず口を開けて「どういうことですか!?」と叫びそうになり、慌てて口を閉じた。
(そりゃあオレだってエリザの面倒を見てきたが、あいつは元・令嬢とは思えないほどに元気で、風邪のひとつも引かねえ。オレと、メリーも怪我はしても病気をしたことがない。はっきり言って、おまえをどう看病したらいいかわからなかったんだ)
(ですが、とても手際がよかったです。いろいろと対処してくださったではありませんか)
(医学的知識も持っている先生に伝書鳩を出して、どうしたらいいか訊いた。けど、食事や薬は何を出したらいいかわからなかった。おまえの食べ物の好みや持病、薬の飲み合わせもあるだろ。だから奥様に聞いたんだよ)
病で臥せていたときに、すりおろし林檎を食べさせてもらったことを思い出し、頬が熱くなる。あれは母様のアドバイスあってのことで、僕がマックスさんに面倒を見てもらっていたのが母様に全部筒抜けだったことに、恥ずかしくなる。
「おい、男! うちの息子を熱心に見つめるな! 顔に穴でも空いたら、どうしてくれる!?」と喚く父様の声が耳に入り、マックスさんとの会話を中断する。
「マリア……なぜ、この男の手紙など受け取ったのだ。そんなものは早々に捨てればいいものを」
「わたしだって最初は何かの悪戯かと思いましたわ。でも、」
母様が、僕とマックスさんを一瞥し、慈愛に満ちた顔で笑った。
「古い魔法を使って、わたしが手紙に興味を持つように工夫がされていたから、つい……ね。手紙の書き方も礼儀正しくあろうとしているのが伝わりました。ルキウスがギルドに加入したいと願い、試練としてビックゴブリンを倒したこと、パーティのメンバーの方が力を認めて期待していること、危険な目に遭わないよう命を懸けて守るって書かれていたんですもの」
命懸けで守る――血族の人間がギルドへ加入して魔族に殺されたら、国で大騒ぎになる。だからマックスさんは母様を安心させるための文章を綴り、僕がギルドを脱退することがないようにしてくれた。
思いがけない心遣いから、あらためてマックスさんの真面目さや誠実さを知り、なんて素晴らしい人なのだろうと感動する。
同時に、それを変な風に曲解して胸をはずませた。
「特にルキウスが疲れて熱を出したときの手紙の量といったら、すごかったわ。わたしがアレクサンダーのお産でおなかを痛めたときのラーメスのような慌てぶりで、笑ってしまいました」
鈴の音を転がすようにコロコロと母様が声を上げて笑う。
めずらしくマックスさんが頬を染めて、困っている。
「奥様、どうかご容赦ください」
「ええ、今はそうしておくわ」
父様は、母様が僕とマックスさんの味方であること、オレインやメイドたちが中立の立場でいることに、憤った。
「いい加減にせよ、マリア、ルキウス! ギルドなどという卑しい職業の者に――」
「あら、アンナさんのお父様だって、ギルドとして働いていました。卑しい仕事ではありませんわ」とバッサリ切り捨てられる。
「この国を他国の兵や軍、賊から守っている騎士たちと同様に、魔物や魔獣、悪魔から人々を命懸けで守っているんですもの。尊いお仕事ですわ」
おっとりとした母様の言葉に、父様は涙目になる。
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