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第12章 久々の我が家4

「大丈夫ですよ、至極当然のことです。わたしの身分やどういった人物であるかということを証していないから、旦那様もルキウス殿を任せていいのか、不安に駆られるのでございましょう」  父様はマックスさんの言葉に、ぐうの音も出ない。 「でも、あなたは奴隷に落とされた身分を、庶民へ快復したのでしょう。元の身分や出生なんか関係ないわ。あなたはルキウスが高熱を出しているとき、熱心に看病をしてくれた。ここまでフロレンスともども五体満足の状態で送り届けてくれたもの」  母様の言葉を訊いて父様は、居心地悪そうにしている。落ち込み、どうしようかと視線を彷徨わせている父様の肩に、母様の手が触れる。 「ねえ、あなた。得意なことがひとつだけよりも、ふたつ、三つは、合った方がいいとわたしは思いますよ。母様は王女だったけど、ご学友であるご令嬢や女官たちもびっくりするくらい、活発でさまざまなことができたんです。剣や槍、弓矢、乗馬の達人で、辺境の地に赴いたりして賊や魔物と戦い、お父様の肝を冷やしました」 「……何が言いたいんだ」 「女で元・王女であったおばあ様ですら、そのように殿方に負けず劣らずの行動を取るんですから、男であるルキウスに大人しくしろと言っても意味がない、ということで。ルキウスも二十歳を超えているのだから、大切なことは自分で決めますわ」 「ああ、そうだな」と父様が肩を落とした。 「すまない、マクシミリアンさん。あまりにも無礼な態度と言動をしてしまった」と手を差し出し、マックスさんと握手をした。 「いいえ。突然殴られたり、ハンカチや手袋を投げつけられた訳ではないですから」とマックスさんのジョークに父様は苦笑した。 「――どうか息子をよろしく頼む」 「もちろんでございます。ルキウス殿は、この身に変えてもお守りします」  僕はマックスさんに「それでは困ります」と意見する。 「マックスさんがいなくても、大丈夫なように、魔法や武芸を身に着けなければなりません。そうでなくては、僕がギルドに加入した意味がありませんよ。どうか戦い方についてご指導くださいませんか?」 「ああ、もちろんだよ」と頭をそっと撫でられる。 「でも、まだ病み上がりだ。まずは主治医に見てもらえ。主治医が通常通り動いて問題なしって太鼓判を押したら、ビシバシ鍛えてやるから。オレの訓練は厳しいから覚悟しろよ?」  僕はマックスさんの言葉に「はい」と答える。 「ルキウス、この後はすぐにギルドのお仕事なのかしっら?」と母様に訊かれ、首を横に振る。 「では、まずはお昼でも一緒に食べましょうよ。それからお医者様をお呼びして、特訓の可否をお聞きして、特訓でもしなさいな。オレイン、マックスさんを客室へお通しして差し上げて」 「奥様! わたしのような下賤な者を館にあげてはなりません」と焦りを滲ませた声で、懇願する。  でも、母様は「何を言っているの」とマックスさんの言葉を一周した。「あなたはルキウスの上司で、師にもあたる人間よ。あなたを雑に扱ったりしたら、わたしたちが」 「安心せい、マックスさん。クライン家は大奥様が変わった方であるために、従者もいっしょに食事をとることになっている」とオレインがマックスさんに耳打ちする。 「へえ、なるほどな。ではお言葉に甘えさせていただきます」  マックスさんが魔法の船を地面に沈んで姿を消し、地面が元通りの状態になるのをみんなで不思議な気持ちで、注視する(一番歳をとっているオレインが目をかっと見開いて、「なんじゃこりゃ」とたまげているので、オレインよりも古い魔法らしい)。 「さあ、こちらへ」とオレインがマックスさんをやかたへ案内をする。 「我が家に、ルキウスが招待したお客様が来るなんて。めったにないものね。うれしいわ」と母様がメイドたちに話しかける。 「そうですね、奥様」「ピーター以外が来るんだもの、ウキウキしちゃう!」と若いメイドたちは浮足立った。  若いメイドたちがマックスさんのことを話題にして、母様とメイド長についていく。  ――彼、男らしくてワイドルでいいわね。  ――ね、背も高いし、鍛え上げられた身体をしているわ。  ――あの逞しい腕で背中にある大剣を振るうのね。あの腕に抱かれたい!  ――彼、未婚だと思う?  ――あんな働き手になってくれそうな男は、もういい女が捕まえているって!  キャッキャして、マックスさんの登場に色めき立つメイドたちに、なんだか胸がムカムカする。  隣で静かに事の顛末を目にしたフロレンスが、慰めるように鼻を擦りつけてくる。  僕は彼女の頭を撫でた。 「ルキウス、悪かった。おまえの前でマクシミリアンさんにひどいことをして」と横から父様が声を掛けてくる。 「父様、悪かったと思うなら、今後はマックスさんに対して普通に接してくださいね。彼は悪魔ではなく、僕に救いの手を出してくれた剣士様なのですから」  こほんと咳払いをしたかと思うと父様は、どこか落ち着かない様子でソワソワする。「マクシミリアンさんとは、ともに寝たのか?」と訊かれた。

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