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第12章 愛慕1

   *  僕はマックスさんを迎えに行き、館の中と庭について説明し歩いた。 「ここがフロレンスたちのいる厩です。厩番はなく僕と父様が交互に面倒を見ています。どうしても僕や父様が面倒を見れないなときはオレインに見てもらっているんです」 「なるほど、綺麗に整えられているな」  マックスさんが厩の中を眺め見、フロレンスの背を撫でた。  最初の頃の冷たい態度が嘘みたいだ。  フロレンスはマックスさんに慣れ親しみ、尾をハタハタと振って、機嫌よく鳴いた。  僕らは厩を後にして、館の裏にある小さな森と湖を見に行った。  僕は彼を案内しながら、父様と母様の口にした言葉の意味を頭の中で考え、訓練についての話をする。 「ところで訓練はどこで行うのですか?」 「ああ、魔法の船の扉から訓練場へ行く。この館周辺を荒らす訳には行かねえからな」  木々の生い茂った道を並んで歩く。  緑の葉とマックスさんの髪が日の光を受けて、キラキラ輝く。  風が吹き、葉擦れの音がざあざあとする。 「風が気持ちいいな、涼しい」 「はい。夏場はこちらでボートに乗ったり、湖で泳いだり、木陰で涼んだりするのです」 「いいな、それ」 「マックスさん」 「ん?」と彼が僕の顔を見る。 「あなたは僕のことを恋愛対象として、好きなのですか?」  マックスさんは目を見開いてから苦笑した。 「気づいてたか……」 「……最初は、からかわれているのかと思いました。でも、あなたはわざと人に勘違いをさせ、笑いものにする人ではないです。次はギルドのパーティに加入した新米として、かわいがってくれているとうれしくなりました。でも、それにしては、度が過ぎた態度です。父様や母様への態度でまさかと思い、昼食後のお茶の席で確信しました」  マックスさんが照れ笑いをしながら頭の後ろを搔く。 「どうしてですか?」  僕は彼の目を見つめる。 「どうしてって――」 「見たでしょう? 父様も母様も美しい容姿をしています。それなのに僕だけ、醜い容姿をしているのです。兄や弟は両親に似て美形だったり、美少年なのに――僕だけひどく醜悪な見た目をしています」  するとマックスさんは真顔になり、僕の目を見つめ返した。 「あなたは『自分を卑下するな』と言うけど、僕はエドワード様に利用され、捨てられた愚か者です。あの方が本気で愛したのは僕じゃない。可憐な乙女のように美しい容姿をした偽の神子です。僕は僕が嫌いです。大切な人たちを守りたいのに、同時に偽の神子を殺したいほどに憎んでいます」 「ルキウス……」 「エドワード様から思われる彼が羨ましかった。容姿が美しいだけでも素晴らしいのに、その上彼から一番に思われている。恨めしくて、疎ましくて、腹が立ちました。それなのに、周りの人たちに平気で嘘をつく。自分とエドワード様が幸せなら、大勢の人が不幸になり、死んでも構わないと考えるあの人が許せません。大切な人たちを守ることを口実にして、偽の神子の暗殺の暗殺だって考えた。僕は容姿だけでなく、心の中まで醜いんです。マックスさんは何か勘違いをしています」  とうとう言ってしまった。  これでマックスさんの心は僕から離れる。ギルドのパーティを解任されたら、どうしよう。  英雄をさがせなくな状況を自分から作るなんて、本当に愚か者以外の何物でもない。  僕には、だれかを好きになる資格なんて、最初からなかった。それなのに、家族や友だちのように自分も恋をしたい、幸せになりたいと望んでしまった。  分不相応なことを考えたからバチが当たった。やはり、エリザさんは間違っていない。 「おまえは、まだエドワード王子のことを思っているのか? それともオレを恋愛対象には見れない?」 「え?」  彼の言っていることがわからず、訊き返す。 「オレに思われるのが迷惑なら、ハッキリ言ってほしい。そうしたら、ただの上司として接するから」  そう言われて僕の胸がズキンといやな音を立てた。 「オレはおまえを醜いと思ったことは、一度だってない。ルパカーの件で助けてもらったときも、こんなに綺麗な人がいるのかって驚いたんだ」 「綺麗?」  そんなことは一度だって言われたことがない。何かの聞き間違いかと耳を疑った。  しかしマックスさんはまた、あのやさしい表情を浮かべて「ああ」と頷いた。 「太陽みたいな色をした髪、新緑のような瞳、初雪のような肌も綺麗だ。オレのような人間にも、わけ隔てなく接する心に心惹かれた」 「嘘です」  僕は目線を下にやり、館の方へ帰ろうとする。が、手首をマックスさんに摑まれた。

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