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第13章 違和感1

 料理長の用意してくれた料理を食べ、お風呂に入って疲れを癒やしたものの全身筋肉痛だ。  フロレンスに乗って遠駆けをするのも筋肉を使うが、それ以上にハードだった。  自室で髪を乾かし、日記を書いて、ベッドへ横になる。  もっとマックスさんに訊きたいこと、話したいことがあった。  でも館の人間は、マックスさんが僕のことをどう思っているのか知っている。  僕も彼と同じ気持ちであることを告げ、英雄の手掛かりを見つけるまで待ってほしいと言った。  このまま彼のいる客室のベッドですぐに――ということは彼の性格からしてないだろう。僕が本気で嫌がれば、止まってくれる。  ただ、このまま彼のところへ向かえば明日の朝には使用人たちや、父様から嫌みや皮肉を言われ、マックスさんのメンツが丸つぶれだ。僕も約束をした手前、夜中にひとりで彼の部屋へ訪れるのは気が咎める。 「マックスさん……」 (なんだ、どうした)  彼の声がして、僕は慌てて身なりを整える。髪をリボンで縛り、ネグリジェの上からガウンを羽織って、扉をそっと開ける。  しかし、廊下にマックスさんの姿は見えない。  空耳かと扉を閉めれば、彼がクスクス笑う声がする。 (オレがおまえの部屋の前にいると思ったのか。かわいいな、ルキウス。期待したのか?)  彼が読心術を使えて、心の中で会話できることを思い出し、鼻の頭を擦る。 (そうですね。先ほど、おやすみの挨拶をしたばかりなのに、あなたに会いたいです。会いに来てくれたのかと勘違いしちゃいました) (オレもおまえに会いたくて、こうやって話しかけちまった。寝れそうか? 身体バキバキだろ) (はい、ひどく疲れました。ですが、頭はいつも以上に冴えていて、寝れるかどうか怪しいです) (じゃあ、魔法の船のときみたいに話すか?)  そばにいないのに彼の声を聞けて、うれしくなる。 (ありがとうございます。今日は具合も悪くないですから、僕もマックスさんとお話したいです) (いいな、オレが一方的に話すよりもずっといい。いろいろおまえの家族や兄弟、以前の職場についてとかさ。おまえが寝るまで話そうぜ)  そうして僕らは、他愛もない話を続けた。  話しているうちに、ふと偽の神子と亜空間で会ったときの出来事が気になった。 (マックスさん、偽の神子は魔王の力を行使して歴史を変えようとしながら、同時に僕を殺そうとしているのはなぜでしょう? 僕をおかしな剣で殺すことで、僕を元の時間軸に戻し、斬首刑にするなんて言っているんです。単純に僕を殺せば済む話なのに、ずいぶん回りくどいことをしていませんか?) (保険だろ。おまえがこの世界で英雄を見つけ、英雄が力を奮えば、エドワード王子と偽の神子は手も足も出なくなる。おまえが王様や王妃様たちを毒殺しようと考え、王位簒奪を企てている話を、エドワード王子の耳に吹き込まないとエドワード王子は、偽の神子に本気にはならない。  だが、おまえはもうエドワード王子を好きでないし、徹底的に接点を持たないようにしている。おまけに自分からギルドになった。血族として、今後王宮で上位の役職につく道を自ら閉ざしたようなもんだ。前線に立ち、魔族や魔物、悪魔とやり合う形で王様への忠誠心を表している。だから王位を簒奪する口実を作ることも難しいんだ) (やはり、偽の神子の考えはよく理解できません。端的にマックスさんのご意見をお聞かせください)  (魔王の力を使って根本的に歴史を変えるか、“ゼロの魔術”でおまえに掛かっている『過去』の女神の加護を解き、元いた世界に送り返して斬首刑にしない限り、偽の神子の望む未来が訪れなくなった。偽の神子もここで大勝負に出ないとおまえに負けるって、切羽詰まっているんだろう)  その話を聞いて、今回僕のやってきたことが間違いではなかったと、少しだけ自信を持てた。 (それは魔王が復活したのに、戦争が置きていないことと関係があるのですか?) (ああ、やつの骨は勇者たちが粉にして、各地へバラ撒いた。そいつから魔王の元の肉体を作るのには千三百日は、かかる。それに魔王の力は勇者たちによって、宝石に封じられた。その宝石を天井の神々、エルフ、ドワーフ、妖精、魔族、王、地獄の神が守っている。その守りは厳重だ。一番簡単そうな王の宝石ですら、転々と場所を変えて特定するのは容易じゃない) (そんなことに時間を掛けるよりは、僕に掛かっている『過去』の女神様の加護や、女神様に出会った事実をなかったことにして、僕を斬首刑になる瞬間の時間へ戻す方が簡単、ということですね) (ああ、だから、偽の神子はこれからおまえへの接触を増やすだろう。魔王が復活した今、魔王の元・家臣たちが戦争を起こすだろう。そのドサクサに紛れて、おまえをゼロの魔術の掛かった剣で刺し殺せば、すべては片がつくからな)  もしも、亜空間で偽の神子に刺されていたら、どうなっていたことか……。あのとき、光が差さなければ、そのまますべてが終わっていたことにゾッとして、両の腕をさする。 (心配するなよ)とマックスさんに勇気づけられる。

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