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第13章 変革1

  *  一週間が経った。  朝から晩まで特訓漬け。高度な魔法を百発百中で出せるようにし、マックスさんの攻撃を受ける瞬間に防御魔法を発動させる練習をした。  結局、エリザさんの件を始めとした違和感を覚えたものをマックスさんに訊くことができなかった。  暇がなかった訳じゃない。  特訓の合間を縫って、何度かマックスさんに訊こうとした。そのたびにマックスさんは、なんだか困ったような笑みを浮かべた。  彼がその件について触れられたくない、訊かれたくないという態度をとったから、訊くのをやめたのだ。僕だって『過去』の女神様に力を借りていることや、エドワード様と偽の神子のことを両親に言わずにいる。  それでも母様と父様は、僕を見守ってくれている。そして、いつかはその話をふたりに打ち明けようと思う。  それにマックスさんだって、僕のことを待ってくれている。だから僕も彼が話してくれるのを待つ。  もし、長い時間待ち続けて話してくれなかったとしても、むやみやたらに訊き出してマックスさんの心を傷つけるようなことはしたくない。  お昼を食べ終わって、魔法の船に向かっていると伝書鳩がマックスさんの肩にとまり、手紙になる。  マックスさんは手紙に目を通し、「サギーのところから連絡が入った」と僕に告げた。 「魔道士たちが、ビックゴブリンと子分たちが倒されたかどうか現場検証を行うから同席してほしいそうだ。午後は特訓じゃなく実践にするぞ。召喚魔法・上級魔法を瞬時に使えるか、魔力量が増えたか確認する」 「はい」 「必要なものを準備して、すぐ出発だ」 「わかりました。イワーク洞窟までは魔法の船を使うのですか?」 「いや、使わない。緊急脱出っていう訳でもないし、おまえが転移魔法を使えるかどうかからテストする」  実践は一週間しかしていないけど、魔法や魔術のことなら学院にいるとき本で習ったものは覚えている。それにマックスさんが教えてくれたように、思いが大切なら僕だってできないことはないんだ。  自信満々……という状態ではない。でも一週間で上級魔法を百発百中で出せた事実が、僕の背中を押す。 「向こうについたら、イワーク洞窟内の魔獣たち相手に上級魔法の試し打ちだ。ビックゴブリンの住み家についたら七匹のゴブリンと姉さんたちを召喚。で、転移魔法でここまで戻ってくる。そこまで魔力が保ち、エーテルを使わずに済めば合格だ。当初の目標は達成したことになる。スムーズに行けば夜までには帰れるぞ。奥様とオレインさんに、出かけるって伝えてこいよ。待っているから」 「ありがとうございます。では、一旦失礼します」  自室に戻り、必要なアイテムが入ったカバンを手に取取る。そのまま母様の私室へ向かい、ノックをする。 「どうぞ」と母様の声がする。挨拶をして中へ入る。  母様は、父様の正装の上着のほつれを縫っていた。手を休めて僕の方に目線をやる。 「どうしましたか、ルキウス?」 「これからマックスさんとともに、イワーク洞窟へ向かいます」 「以前話していたビックゴブリンとやらを倒したかどうかの検分ね」 「左様です。早ければ今夜中に帰れます」 「わかったわ、気をつけていってらっしゃい」 「はい、行って参ります」  その場を後にしようとしたら、母様に声を掛けられる。 「あなたは、マックスさんが何者でも彼を愛し続けられるの?」  唐突に訊かれて僕は戸惑った。 「元・奴隷で剣闘士上がりがどういう意味か、わかっていますね」 「……はい、わかっています」  剣闘士は闘技場の奴隷だ。闘技場では、身分に関係なく金のある者たちが、金を出して奴隷たちのパフォーマンスを見に来る。  演目は、殺し合い。  奴隷の多くは魔物や魔獣、悪魔と命懸けで戦うことになる。しかし、ときには猛獣や他の奴隷たちと戦わなくてはいけない。  なんのためにそんなことをするのか? 観客は興奮と快楽を得るため。そして奴隷は賞金を求め、奴隷から脱せる未来を勝ち取るために、舞台に立つ。  マックスさんは自分で金を払い、身分を庶民に上げた。つまり多くの命を奪って、自分の身分を快復したのだ。 「彼が悪い人だとは、わたしも思いません。ギルドのお給料も命懸けの仕事で申し分ないでしょう。ですが――」 「母様」  僕が口を挟んだので母様は驚き、目を瞬かせた。 「彼は快楽のために人や動物、魔族を殺した訳ではありません。奴隷に落とされ、剣闘士になった。だから、死なないため、生きるために自分ができる精いっぱいのことをした。それだけです」 「ルキウス……」 「どんなに暗く、人から後ろ指を差される過去でも、その過去があったから今のマックスさんがいます。僕はマックスさんのそばにいたい。彼の隣りにいて、ギルドとしての未来を描きたいんです」 「そうですか。野暮なことを聞きました。怪我をしないよう気をつけてください」    僕は母様の部屋を出て、マックスさんの待っているごところへ走っていった。

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