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第14章 第二の試練1

 魔王復活を目論む魔物や魔獣、悪魔たちがフェアリーランド王国へ向かっている。  僕たちギルドはフェアリーランド王国の南端にあるカレイドスコープ村の辺境伯の城に集められた。今回の現場指揮監督にあたる騎兵隊隊長、つまり僕の兄であるアレキサンダーを待っていた。  ギルドでは、それぞれのパーティのリーダーや最年長者が代表として王国の兵隊たちと作戦を練る。マックスさんは戦況を一歩引いたところから俯瞰しという理由で代表を辞退。代わりにクロウリー先生が参加することとなった。  王宮の兵隊たちや騎士の部隊が到着し、さっそく作戦会議が開かれることになった。  最前線は槍隊と騎士出身のギルド。  城門の上に弓兵と投石兵、そして攻撃魔法と防御魔法に特化した魔法使いと魔術師たち、それを守る剣兵。  門前には歩兵隊とギルドの前衛陣、騎兵隊と騎馬隊。  城門内に、避難してきた村の一般人や貴族、村長を守るための女ギルドと衛生兵や医師、看護師、治癒・回復魔法に特化した者たちが配置される。  最前線にピーター。城門の上にメリーさんとクロウリー先生。門前にマックスさんと兄様。城門内にエリザさんだ。  僕も召喚士としてメリーさんやクロウリー先生と同じ場所を希望したが、クロウリー先生とメリーさんに止められてしまった。マックスさんに意見を申したら「エリザたちと一緒に殿(しんがり)を務めろ。制約なしで召喚魔法と上級魔法が使えるようになったんだ。万が一、城の中にスパイや魔物が侵入しても応戦できる。いざとなったら転移魔法で城内にいる人たちを王都へ逃がせ」と頼まれてしまい、反論できない。  偵察部隊の人たちが「後六時間もしないうちに魔族が到着する」と報告をした。  いよいよ戦争突入という状態になり、緊張が走る。  それぞれの持ち場で戦争の準備をしたり、移動する人々で辺りは慌ただしい。クロウリー先生も作戦の最終確認をしに行った。  しおらしい様子のエリザさんがメリーさんに「怪我はしてもいいけど死ぬのは絶対に許さないんだから」と何度も恨み言を口にしてメリーさんを困らせていた。  マックスさんは辺りを見回りに行ってしまって姿が見えない。  僕はピーターと兄様と顔を合わせることができず、どうしたものかとため息をついた。  戦争に突入するなんて思ってもいなかった。  ピーターと兄様の安否を心配しながら、子どものときにおばあ様が話してくれた“おはなし”を思い出す。 「昔々、あるところに勇者様がいました。勇者様は信頼できる仲間を集め、悪い魔王と魔族を倒しに行きました。勇者様は仲間たちとともに悪い魔族を倒し、魔王を封印しました。そして世界に平和が訪れたのです。めでたしめでたし」――だけど、その物語の背景にはマックスさんが話していたように多くの命が犠牲となった現実がある。  そして、その現実がふたたびこの世で起こる。魔物も人も敵味方関係なく大量に死ぬ。後、六時間もしないうちに戦いの火蓋が切られる。  胸がザワザワして落ち着かない。手が震えて不安で頭がおかしくなりそうだ。ソワソワしながらマックスさんの帰りを待つ。  グイと腕を摑まれて、はっとする。 「ルカ、おまえ何をしているんだよ!」  噂をすればなんとやら。持ち場へ移動中のピーターに声を掛けられる。その隣には兄様の姿もあった。  よかった、ふたりに会えた。  一瞬、胸がほっとする。同時にふたりがここで死んでしまったら、どうしようと心臓がバクバク鳴り、頭がガンガンする。 「それはこっちの台詞だよ。ピーター、兄様も!」 「おまえ、ギルドになったんだってな。父上から聞いたよ。単身でビックゴブリンとかいう親玉を倒したんだって?」 「そうなんですかクライン隊長! すごいな、ルカ。学院のときは、しょっちゅう実技ができないって落ち込んでいたのにさ」  ふたりとも笑って僕のことを「すごい!」と褒めてくれた。だけど、ちっともうれしくない。それどころか変な違和感を覚える。 「もう俺が面倒を見ていた小さい弱虫のルキウスじゃないんだな。……もしも俺が死んだら、アンナや子どもたち、義母上のことを頼んだぞ」  ポンと肩を叩かれ、僕は顔面蒼白になる。 「何を言っているんですか、兄様!? そんなことは冗談でも口にしないでください!」  しかし兄様は何も言わずに、覚悟を決めたような顔をする。 「ルカ、今まで友だちでいてくれてありがとな」 「ピーター!?」 「クライン隊長からおまえがギルドになった話を聞いてさ、いざとなったらボクが盾になるつもりでいたんだけど前線にいるからできない。ボクが死んだらキャロルに『いい人を見つけてくれ』って伝えておいてくれないか?」 「馬鹿言わないで! きみがキャロルに言うべき言葉は『ボクと結婚してください』でしょ!? そんな役をやらせるなら絶交だよ!」  僕はピーターと兄様に言いようのない怒りと悲しみを覚え、肩を震わせた。 「ルカ」 「そうだぞ。あんたらが死ねば、ルキウスの努力は全部 水の泡になる」

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