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第14章 第二の試練2

 見回りを終えたマックスさんが帰ってきた。  兄様は怪しい人物を見るような目つきで、マックスさんをじっと見た。 「あんたが父上の言っていたマクシミリアンさんか」  兄様の問いかけに対して「お初にお目に掛かります。アレキサンダー・クライン様。マクシミリアンと申します」とお辞儀をする。お辞儀を終えるとピーターに手を上げて砕けた挨拶をする。 「で、あんたが親友のピーターだな。よろしく」 「どうも」とピーターがめずらしく、たじろいだ。 「それでマクシミリアンさんは、俺たちに何が言いたいんだ。そもそも、うちの弟を放りだして――」  するとマックスさんが何か魔法を使った。  兄様とピーターは驚愕しながら、辺りを見回す。 「安心してください。これは目くらましと人の話している内容を隠し、相手には別のことを話していると思わせる魔法です。――この中に、ルキウス殿の命を狙う暗殺部隊が潜んでいる」 「なんだと!?」「本当かよ!」  兄様とピーターがほぼ同時に叫んだ。 「誰だ、うちの弟に暗殺部隊を送り込んだやつは!」と兄様が憤る。 「エドワード王子の差し金かと存じます」 「エドワードだと!」 「はい、エドワード王子はルキウス殿に振られた腹いせ及びクライン家の勢力を削ぐために不届きな真似をしています」  兄様は、水面に上がってきた魚のように口をパクパクさせてから目と口を閉じ、押し黙った。 「しかし俺たちは出兵する。ルカを守ることはできない」 「ボクもだ、ルカ」 「そうではございません」  兄様とピーターはマックスさんの言葉に戸惑いを示した。 「ルキウス殿は、あなたたちが思う以上にお強いです。暗殺部隊に襲われたとしても果敢に挑み、最後まで諦めないでしょう」 「あなたは何が言いたいんだ?」  兄様が眉間に皺を寄せて目をすがめた。 「しかし、そんなルキウス殿も心の中では怖い、逃げたいと感じ、死の恐怖に負けてしまいそうなのを必死にたえています。『生きたい』『死にたくない』と強く思っている人間でも、死ぬときは死にます。でしたら『死にに行く』といった発言をして、ルキウス殿や周りの方の士気を下げる真似はどうかご容赦くださいませ」  マックスさんが頭を下げると兄様とピーターは、まずいことをしたなと気まずそうな様子で目を泳がせた。 「兄様、ピーター。僕はエドワード様に振られ、自暴自棄になり、死ぬためにここへ来たんのではありません。この国の未来と大切な人を守りたい、その一心でギルドになったのです」  するとマックスさんがピーターの肩を抱き、彼の肩をバンバン叩いた。 「安心しろ、ピーター。おまえはここで死ぬようなタマじゃない」 「は? えっ?」  マックスさんにどういった態度をとったらいいのか迷っているピーターを見て、兄様がいつものえみを浮かべた。「だな、ピーターはなんだかんだで悪運が強い。学院のときも赤点をギリギリのラインで抜けて、補習をしないで済んでいたからな」  ピーターがマックスさんの腕から逃れ、僕の両肩に手を置き、目を三角にした。 「ルカ! 隊長にそんな恥ずかしい話をしたのか!?」 「だって、ピーターってば(ほうき)の空中飛行や飛行魔術は頑張るのに、それ以外はぜんぜん努力しないでしょ……」 「空を飛ぶのは爽快だ! それ以外はつまんねえよ!」 「おいおい、そんなんじゃいつまで経っても昇給試験に受かんないぞ」  彼らのいつも通りの姿に不謹慎だが声を出して笑ってしまう。  ピーターと兄様は肩の力を抜くことができたようだ。 「……マクシミリアンさん、ありがとう」と兄様がマックスさんに笑いかける。 「なんのことでございますか?」 「あんたの言葉で気持ちを切り替えられた。『生き残る。絶対に死なない』って気持ちで戦いに望む。気持ちで先に負けていたんじゃ、勝てるものも勝てないもんな」 「はい、その心意気でございます。アレクサンダー様もご安心ください。あなたがこの戦争で死ぬことは、絶対にございませんから」 「お、おう。じゃあ俺は部下たちやギルドの人と作戦会議だから。先に失礼する。ルカ、おまえも生き残れよ」 「もちろんです、兄様。お気をつけて」  そうして兄様がマントを翻した。 「なんかすごい人と知り合いになったな、ルカ」とピーターが口を僕の耳に寄せる。 「うん、自分の身長よりもある大剣を振るうすごい人なんだ。マックスさんに特訓をしてもらったら僕、魔法や魔術を使えるようになったんだ」 「へえ、よかったじゃん」 「彼と出会えたことを心からうれしく思っているよ」 「そっか。いい人に会えてよかったな。それじゃ、この後キャロルにプロポーズするから手伝ってくれよ? おまえもエドワード様の暗殺部隊とやらに、負けんなよ」 「うん、ピーターもね」  手を振ってピーターと別れる。  隣に来たマックスさんに「――ルキウス、用心しろよ」と注意される。 「わかっています。殺気を感じていましたから」 「ああ、大胆にも暗殺部隊の連中が兵の連中を装って、紛れてる」

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