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第14章 第二の試練4
投石機で石を投げ、砲台から砲弾を放つ。弓兵たちが弓矢を一斉に放ち、魔法使い・魔術師が遠隔魔法で攻撃を仕掛ける。
槍兵たちと元・騎士のギルドたちが先陣を切る。歩兵、熟練のギルドが次いで戦いに参加し、騎馬隊・騎兵隊が突入する。
上空を飛べる魔物や魔獣、悪魔たちが城門の上に押し寄せてくる。
人や魔族の叫び声、剣戟や矢が飛び交う音、石や砲弾が王城に落ちる轟音、馬の駆ける音、火薬肉の焼ける臭い、血の生臭い臭い。
僕とエリザさんは怪我を負い、後方へ運ばれてきた人たちを救護室へ次々運んだ。
運んでいる最中に命を落とす人や、さっきは元気だと思っていた人が救護室で命を落とし、仮の霊安室へ移動されている姿を目にする。
医師や看護師、魔法医、魔術医が素早く患者を手当する。城内に逃げ込んできた人たちも血で汚れたシーツを手早く取り替え、こまめに掃除をした。
魔法や魔術の得意な者は砦や王城の防備が破壊されるたびに防御魔法や、修復魔法・魔術を使う。それ以外の者は内部へ侵入し、一般人を人質として連れ出そうとする魔族がいないか目を光らせ、見つけたら交戦する。
これが戦争……。
魔族は約束通り、日が地平線に沈むと一斉に引いていった。
一日目が終わった。
すでに死者数は二百人以上。傷病者も多い。
兄様は王宮へ早馬をやり、地方からの増援部隊を送ってほしいと王様への勅書を送った。
ピーターもマックスさんたちも傷ひとつない状態で帰ってきた。
だけど、中には仲間やパーティのリーダー、上司・上官がなくなり、悲しみに暮れている者たちの姿があった。
*
夜になると僕は作戦会議の場へ連れて行かれた。
三分の二以上の者が僕を魔族に引き渡すことに賛成した。それは騎士身分の者や、貴族と懇意にしている者たちが多かった。僕がギルドに加入したことをよく思っていなかったり、同性愛者を毛嫌う者も入っていた。
残りの三分の一は兄様と兄様やクライン家と懇意の騎士たちだ。僕がビックゴブリンを倒したことを知っているクロウリー先生を始めとしたギルドのリーダーたちも「召喚師を亡くしたら損失が大きくなる」と反対意見を出してくれた。彼らは王様の判断をあおぐまでは、僕を魔族に引き渡さないようにしてくれた。
でも王様の背後にはエドワード様がいる。結果は火を見るより明らかだ。
*
そして三日目の夕方。王様の勅書が届いた。
潔く僕の身柄を魔族へ引き渡す内容のものだった。
フェアリーランド王国は大きな国と国の戦争を、ここ二百年は経験していない。
普段人間相手をすることの多い兵たちは魔族相手に勝手がわからず、ひどく疲弊していた。ギルド以上に死傷者数が増えていく。魔王が完全復活したら確実に負ける。時間稼ぎをして兵を増強する必要があった。そのためにも僕を生贄にすることは道理だ。
僕はマックスさんとふたりで中庭を歩いていた。見張りの兵たちが松明を手にして辺りを見回っている。
「マックスさん――僕は、魔族のもとへ向かおうと思っています」
「なんだって?」
マックスさんがひどく驚いた形相をする。
「この短期間で千以上のの命が失われ、王城に身を寄せている幼子とその母たちが、王城に侵入した魔族に襲われました。エリザさんのおかげで怪我を負わずに済みましたが……以来、彼女たちは夜も眠れていません」
「だからおまえが行くのか? 魔族のところへ?」
「そうです。僕の始めたことで魔王が復活し、戦争すら始まってしまったのですから、責任を取らなければいけません」
マックスさんは静かに怒っていた。ピリピリとした雰囲気を纏って、眉間に皺を刻んで僕を見つめた。血管が浮きでるほどに強く握った彼の拳を手に取る。
「ご安心ください。死にに行くのではありません。ただ……死の恐怖に負け、今すぐこの場から逃げ出してしまいそうな僕に勇気をわけてほしいのです」
ほうと彼が息を漏らし、力を抜くのを感じて微笑む。
「頼むから驚かせないでくれよ。心臓がいくつあっても、もたねえ」
「言ったでしょう。英雄をさがすまで死にきれないって」
「……で、策はあるのか?」
「策と言えるものではありません。子ども騙しのようなものです」
うまくいくかわからない。怒った魔族たちの攻撃を受けて死ぬほどの怪我を負うかもしれない。
それでも目的は果たす。
もう後戻りはできない。これが僕にとっての最後のチャンスだから。
どんな状況になっても、これ以上、誰かを傷つけさせない――。
*
四日目の朝、僕は兄様に連れられてダークエルフの前に立った。僕の後ろには、箒やちりとり、雑巾にバケツ、モップといった掃除用具を入れた荷台を引く隠者の姿があった。
「決心がついたようだな、ルキウス・クライン。武器は持ってないな?」
「将軍、そいつは武器を持っていようと、いまいと関係ないですよ」
「ビックゴブリンとゴブリンたちがやられたのも、あいつらが弱いからです。ただのまぐれですよ」
「その荷代に乗せたものがおまえの花嫁道具か? ずいぶんとひどいものだ!」
魔族が、せせら笑う。
大方、僕の身体が弱いことや、戦いに向いていないことを偽の神子に聞いたのだろう。それなら好都合だ。
「さあ、おとなしく同行してもらおうじゃないか?」
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