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第15章 媚薬1※

「ルキウス!」  マックスさんが来てくれた。  彼は大剣を振り回し、花を真っぷたつに叩き切り、淫魔たちの首をはねた。すると手足を縛っていた蔓が取れ、僕は地面に向かって落ちていく。 「ルキウス!?」  マックスさんが大剣を手放し、僕の身体をキャッチしてくれた。だが――。 「ああっ……!」  性器に触れられた訳でも、服で擦れた訳でもないのに僕はマックスさんの腕の中で射精してしまった。  ただマックスさんの腕に抱きしめられ、彼の熱や肌の匂い、草原を思わせる香りを感じただけで達してしまったのだ。  顔を赤くしたり、青くしてマックスさんが困惑する。 「ルキウス! だいじょ……」 「来ないでください!」  自分の射精した精液の臭いが気持ち悪い。  身体の芯が冷えていく。  それなのに燃えるように身体が熱い。  自分の意思を無視して、ふたたびペニスが勃起し始めている。刺激を欲しがって尖る乳首と男を欲しがっている後孔に恐怖する。 「さっきの悪魔たちに媚薬を注入されのか?」  マックスさんはいつも通りに話しているだけ。それなのに僕の発情しきった身体は彼の声にすら反応する。口を開けば、喘ぎ声がもれてしまいそうだ。両手で口を塞ぎながら頷いた。 「マックス、よくない兆候だ。急いで薬を調合しないとルキウス殿が精神崩壊を起こすぞ。師匠!」 「わかっとる、この場で作るわい!」  先生が大鍋を出して火をつけた。手持ちの薬品や薬草を鍋の中へと入れていく。  残った医師や看護師たちから足りない薬草をもらってくるよう頼まれたエリザさんが救護所へ走る。  メリーさんが急いでテントを張り、マックスさんに中へ入るように告げる。  マックスさんは僕を敷布団の上に寝かせると兄様たちと出会ったときに使った魔法をかける。僕は布団を手繰り寄せ、身体を隠す。  だけどマックスさんに布団を奪われ、正面から身体を観察される。 「やだ! ……マックスさん……見ないで……」 「見ない訳にはいかねえよ」と彼が、にじり寄る。「このままだとおまえは性奴隷と同じ状態になっちまう」 「や、やです……なりたくない……」  自分の腕で自分の身体をかき抱く。 「く、薬は?」 「たとえ材料があったとしても、三十分以上はかかる。なければ、淫魔の死体と本体の花から抽出するから二時間はかかるな」 「そんな……」  絶望に打ちひしがれる。  だんだん頭と心も快楽を求めることで、いっぱいになってくる。  英雄を見つける目的も、未来を変える信念も粉々に砕け散る。  自分のことも、大切な人たちの顔もどんどんおぼろげになり、遠く霞んでいく。  なにもかもが内側から壊され、崩れ、消えていく。  ――だれでもいいからほしい。めちゃくちゃにされたい。  犯して。  叫んで頭を打ちつけてでも正気に戻らなくちゃ。でも身体が思う通りに動かない。 「ルキウス、しっかりしろ!」  マックスさんの手が僕の頬を軽く打つ。彼の手が頬に触れただけで、ビクリと身体が勝手に快感を拾った。 「ぼく、どうなるんですか……? このまま……こわれる?」 「壊れねえ、壊させやしない……!」 「マックス……さ、ん……」 「この状態をどうにかするには、薬を飲む方法以外では心を満たすしかない」 「心……?」 「そうだよ。淫魔の力は、よこしまな呪いと同じで、呪いを解くには真実の嘘偽りない心が必要だ。やつらは、まがい物の快楽と愛を植えつける。だから、だから――」  こんな状態でマックスさんに触れられたくなかった。  それなのに心臓がドキドキ言っている。媚薬のせいだけじゃない。  大好きな人に触れてもらえることを期待している。その事実が僕の心をズタズタに切り裂いた。 「先生が解毒薬を調合するまでの間だから」  まるで言い訳をするようにマックスさんがマントと頭の布を取り去る。衣擦れの音が際立って耳に入る。  そうして彼の無骨で大きな手が両頬を包み、マックスさんの唇が僕の唇に触れた。魔力を供給したときと同じか、それ以上に気持ちいい。 「ふあっ……」  長く唇を重ねているだけだったものが深くなる。唇を優しく何度も(ついば)まれ、マックスさんの肉厚な舌が僕の舌と触れる。電流が腰から首にかけて走る。  頬に触れていた手が、ぽってりと赤く腫れてしまった乳首に触れる。普段剣を振るっている指の腹でそっと転がされ、こよりを撚るようにつままれる。  それだけでも、天を向いたペニスから涙のような雫が溢れ、落ちる。  どこか興奮した様子のマックスさんの唇が、首筋や耳を往復する。熱い舌で舐められ、唇で吸われ、吐息がかり、肌が粟立つ。  マックスさんの手が胸から腹を伝い、性器へと触れた。  極稀にお風呂へ入って機械的に慰めるだけ。エドワード様に一度も触れられなかった場所。  やさしく大きな手で包みこまれ、焦れったくなるほどの手つきでゆっくり擦られる。 「や、いや……待って……お願い……!」  焦った表情のマックスさんが「どうした、痛かったか?」と訊いてくる。 「違っ、違くて……すぐに、イッちゃうから……」  マックスさんの生唾を呑んだ音がする。

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