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第16章 波乱の祝賀会1
*
今、僕は憂鬱な気分で王宮にいた。
今回の戦の功労者として僕とマックスさんは戦勝祝賀会に呼ばれ、勲章を授けられた。
はっきり言って、エドワード様や偽の神子、暗殺部隊、神官たちや大臣、敵である貴族や騎士身分の人間と顔を合わせるパーティを楽しめる訳がない。何もしていないのに胃がキリキリする。
一刻も早く帰りたい。
だからといって王様の命令とご厚意を無碍にできるはずもなく。
度数の低いシャンパンの入ったグラスを持ち、ちびちび舐めるようにして飲む。とにかく壁の花――というかもはや自分は壁の一部という心意気で撤した。
唯一の癒やしは正装をしたマックスさんが、王様や王妃様たちから大いに褒められている姿を目にできることだった。
*
あの後、すぐ祝賀会が開かれるから準備をするように宣旨長官様に急き立てられ、僕とマックスさんはパーティを離脱することになった。
クライン家の館に戻り、お風呂で湯浴みをする暇もなくて温めたタオルで身体を念入りに拭い、香水をかけ、正装に着替える。
マックスさんのいる客室に向かい、部屋に入る。
そこには、まるで演劇の俳優たちが「フェアリーランド王国の建国伝説」で身に纏っている古代の王族の衣装に身を包んだマックスさんがいた。
「ルキウス、フリルのついたかわいい格好をしているな。真紅の上着に施された金の刺繍がよく似合う」
「ありがとうございます。ところでその格好は?」
「ああ、オレの出身国の正装だ。これで大丈夫か? 変なところはないか?」と大真面目に訊いてくる。
「マックスさん、その格好では駄目です! それじゃ、役者さんですよ。僕の着ているような衣類は持っていないのですか?」
「いや、持ってない」と彼が自分の着ている衣服をつまんだ。
「兄様や父様の服じゃサイズが合わないし。どうしよう……買いに行く暇も、作ってもらう時間もないし」
「おまえみたいな衣装を身に纏えばいいのか? ……こんな感じか?」
指をパチンと鳴らせば、マックスさんは深い青に銀の刺繍が施された正装姿になった(シャツや上着についたフリルはすべて取り払われているが)。
「もう、ビックリさせないでください。他国の使者や王族関係者でもないんですから、先ほどの格好で王宮に入ろうものなら不敬罪で罰せられちゃいますよ!」
「悪い、悪い」と悪びれることなく、マックスさんが平謝りする。
「つーか、いいのか? このままじゃ、エドワード王子や偽の神子と会うことになるぞ」
「もうここまで来たら、しょうがないですよ。王様の命に逆らう訳にはいきません。何より偽の神子にも正々堂々と戦うと宣言してしまいました。こちらから顔を見せるくらいの気概でないと。魔族や暗殺部隊、淫魔の件もありますし」
「わかってると思うけど用心しろよ? アレキサンダー様やピーターも呼ばれているけど、安全という訳ではないんだ」
「もちろんですよ。敵陣に乗り込むようなものですからね」
「ん、しっかり頼むぜ」とマックスさんが僕の唇を奪っていった。
「ま、マックスさん! 何をするんですか!?」
「エドワード王子よけのまじない。エドワード王子がルキウスに粉をかけてこないようにするための魔法だ」
「いったい何を考えているんですか? エドワード様は僕のことを利用していただけです。おまじないをする必要なんてありませんよ」
僕はマックスさんの言葉にあきれてしまった。
「ルキウスは俺の大切な人だ。たとえ、多額の金銀財宝を積まれて頭を下げられても返すつもりなんてない!」
「ありがとうございます。でも、それは無用の心配です。さあ行きましょう」
――何時間か前の僕。たしかにマックスさんはすてきな人だよ。キスもして、それ以上のこともして、愛されていることを実感して浮かれていたんだね。
だからエドワード様の恐ろしさを忘れているし、彼の凶行によってひどい目に遭うんだよ。
*
「――見つけたぞ、ルキウス」
地を這うような声にシャンパンのグラスを落としかける。
顔に貼りつけたような嘘の笑みを浮かべたエドワード様が現れる。
その姿を見れば、恐ろしさや愛しさといった感情ではなく、底なしの怒りと悲しみが溢れ出す。
「お久しぶりでございます、エドワード様」
「ああ、久しぶりだな。ギルドとして、父上から勲章をもらったんだって?」
「はい、ありがたき幸せにございます」
何を考えているのかわからないエドワード様に腰を抱かれる。ひどい嫌悪感を覚え、でも表情には出さないようにする。
給仕係のトレイに空になったグラスを置く。
エドワード様の真意を探るために青い目を見つめる。
「積もる話もあるだろう。少し外の空気でも吸いながら話をしようじゃないか」
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