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第16章 波乱の祝賀会3
「わたしはルキウスの上司です。部下である彼が何か不手際をしたというのなら、わたしが謝ります。ですから、その手をお放しください」
「ふざけたことを! 貴様、俺をなんだと思っている!?」
激怒して大声で喚くエドワード様とは対照的に、マックスさんが冷静な態度のまま落ち着いた口調で答える。
「ルキウスがいやがっています。彼は、あなたの放った暗殺部隊により命の危険にさらされ、先の戦いでも兵士のふりをした彼らに脅かされたのですよ」
エドワード様が息を詰めた。
「それとも、あなたの名前を使って偽の神子が独断で動いたのでしょうか?」
偽の神子という単語に狼狽えたエドワード様の手からわずかに力が抜ける。その隙をついて彼の腕から逃れ、マックスさんの隣へ立つ。
エドワード様は信じられないものを目にしたように呆然とした。
「あなたにとっては取るに足りない存在なのかもしれません。自分のプライドを傷つけ、袖にした男。この世から消えてなくなれば、気分もスッキリするでしょう。ルキウスが痛めつけられ、苦しみながら死んでいくのを望んで――」
「そんなはずがないだろう!」
エドワード様の慟哭のような叫びに僕とマックスさんは驚き、息を呑んだ。
「俺は、俺なりにルキウスを愛してきた。一度は結婚を考え、つきあったんだぞ! そんなことをする訳がどこにある!?」
怒りを滲ませた表情を浮かべたマックスさんが、握った拳を小刻みに震わせた。
「あんたは権謀術数が得意なんだろ。ルキウスを利用して後は捨てるつもりだった。今さら執着して何がしたい? ルキウスの身体や心を傷つけることが愛だと言うのか?」
苦々しい表情を浮かべて、エドワード様が項垂れた。
「エド、待って! なんでルキウスのことを、そんなに――」
偽の神子だった。
今すぐ、この場で偽の神子を殺したい衝動に駆られる。
そんなことをすれば偽の神子の思う壺。
何より、僕が人を手に掛けたことを知れば、家族が苦しむだけだ。
「ノエル……」と戸惑った表情を浮かべたエドワード様の腕に、偽の神子が腕を絡める。
「ねえ、なんでここにルキウスがいるの? 隣りにいるのだれ? ぼく、知らないんだけど」
真顔になった偽の神子が僕とマックスさんのことを凝視した。
「おまえがノエルか。よくも魔王の封印を解いてくれたな」
マックスさんが見下すような目で偽の神子を見る。
顔色を青褪めさせたエドワード様が言葉をなくし、化け物にでも遭遇したような形相で、偽の神子に目線をやる。
「なんなの、おまえ……だれだよ?」
「ギルドのマックスだ。おまえが馬鹿にする蟻にも劣る連中のひとりだ。エドワード王子と仲睦まじいという話を訊いたが、ずいぶんと嫌われているな」
偽の神子がおもしろくなさそうに、舌打ちをする。それから、にっこりと作り物の笑みを浮かべる。
「人聞き悪いな。エドと結婚するのはぼくだよ。そこのルキウス・クラインじゃない」
ふっとマックスさんが笑う。
偽の神子は「何がおかしい?」と憤る。彼はエドワード様から手を放した。
「勝手にしろ。どうでもいい話だ」とマックスさんがエドワード様と偽の神子へ冷たい目を向ける。
僕の肩にマックスさんの腕が回る。
「帰るぞ、ルキウス。これ以上こんなところにいる必要はない」
「……頭のネジが足りないんじゃないの?」と偽の神子がマックスさんを挑発する。「ぼくは神子。この世界で祝福を受けし者。王族と同じ身分――いや、それ以上の存在だ。ぼくを馬鹿にしたら不敬罪にあたる。だから今すぐこの場で殺してやるよ!」
そうして偽の神子は、亜空間で僕を攻撃するのに使った禍々しい玉を、マックスさんへ向かって投げつけた。急いで防御魔法を掛けようとするが、先ほどエドワード様に手を鷲摑まれた痛みで魔法陣を書けない。
このままじゃマックスさんにあたってしまう!
突然詠唱もなしに白い魔法陣が現れ、禍々しい玉を弾き飛ばした。
僕も、エドワード様も、そして偽の神子も言葉をなくした。
「これくらいの力でオレに喧嘩を売るのか?」
「何……」
「さて……悪魔に唆され、ここまでルキウスを苦しめたおまえを、どうすればいいものか。今回はルキウスに免じて見逃してやる。だが――次はない」
顔を真っ赤にして、偽の神子が幼い子どものように地団駄を踏む。
「衛兵! ここに不届き者がいる、今すぐ捕らえろ!」
「よせ、やめろ。ノエル!」とエドワード様が偽の神子を止めようとする。
「エドワード王子」
はっとしてエドワード様が、顔を上げる。
「あなたにはすでに新しい恋人がいる。これ以上、ルキウスを苦しめないでくれ」
そうして僕たちは王宮を去った。
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