97 / 112
第17章 第三の試練4
すると悪魔が倒れた。
だが――「ここで終わらんぞ。サラマンダーとドラゴンは、おれの手駒だ」
そして全身黒いドロドロした黒い澱 に塗れたサラマンダーとドラゴンが現れ、彼らの強烈な炎の攻撃を浴びせられる。
七匹のゴブリンたちがポンと音を立てて消えた。
「ルキウス殿、やつらの頭を冷やすぞ。蛟の主と水の魔法じゃ!」
「わかりました、クロウリー先生!」
後衛にいる僕とクロウリー先生は、前衛にいるエリザさんとメリーさんにサポートをしてもらいながら、魔法と魔術を駆使した。
蛟の主が熱さに苦戦する。ドラゴンやサラマンダーの攻撃を交わして水を操る。彼らに大量の水を浴びせたり、水でできた球を投げたり、吹きかける。
マックスさんも水魔法を剣に纏わせてサラマンダーとドラゴンに遠隔攻撃をしたり、峰打ちをする。
そうして戦っているうちに、サラマンダーとドラゴンは気絶して地に伏せた。
……終わった。
ぼくらは全員息切れをしながら、サラマンダーとドラゴンへ近づいた。
「甘いぞ、おまえたち」
悪魔が復活し、僕らに闇の魔術を掛けた。
全員、傷だらけで立つことができなくなる。
薬草とエーテルが底をついた。
僕とクロウリー先生も魔力がほとんど残っていない。
メリーさんの緊急退避も悪魔の魔封じで使えない。
万事休すだ。
マックスさんがひとり立ちあがって大剣の切っ先を悪魔へ向けた。
「ほう……そのような状態になっても立ち上がるとはな」と悪魔がマックスさんに関心する。
「よくもオレの大切な者たちに手を出したな」
「生意気な口をきくな、若造」
「……おまえのような低級悪魔と神々に仕えることを忘れた神官かぶれの相手は、オレひとりで充分だ」
眠りから覚めた神官たちがマックスさんに襲いかかる。
「マックスさん!」
僕は血だらけの身体に鞭を打ち、起き上がる。グイとクロウリー先生に手を摑まれた。
「ルキウス殿、防御魔法を我らに掛けてもらえんかのう?」
「クロウリー先生?」
「儂は神官連中、ひとりひとり防御に魔法を掛けねばならん。メリーやエリザ、貴殿にまで手は回せん。任せたぞ」
「なぜですか、どうして敵を守るようなことを?」
「あの馬鹿が頭に来ているからよ」とメリーさんに抱き起こされたエリザさんが、苦虫を嚙みつぶしたような顔をする。
「このままではあの神官たちは全員死ぬ。かといって我々も防御魔法を掛けておかねば、マックスの力を受けてただでは済まない……」
メリーさんの言葉にゾッとする。マックスさんが人殺しをする?
「マックスさん、やめてください!」
マックスさんが大剣を振るった。
すると溶岩がひとりでに動き出して悪魔を包みこんだ。悪魔はおぞましい叫び声をあげて悶え苦しむ。
溶岩が魔王の新しい骨を飲み込み、焼き尽くす。
そしてマックスさんが大剣を地面にふたたび突き立てると地面が割れ、神官たちが溶岩の海へ落ちた。
神官たちは死ねないまま溶岩の責め苦を味わう。
「『裁定』の神よ――判決を」
するとマックスさんが詠唱もなしに『裁定』の神を喚びだした。
「なんで、僕は召喚していないのに……」
「悪魔は懲役五百年。神官たちは終身流刑」
判決が下されれば、男たちは『裁定』の神により、鎖で溶岩から引き上げられる。
空間に穴が空く。穴の向こうは壊れた建物と瓦礫の山、倒れた柱のある場所だった。神官たちはそこへ放り投げられ、空間が閉じる。
悪魔が声高らかに笑う。
「手ぬるいな、懲役五百年とは。だが、地獄の王たちと盃でも交わして……」
「おまえが行くのは悪魔たちの棲家である地獄ではない。オレの住んでいた国の地獄だ。『地獄』の女神が統べる地の底だ。暗く寒い世界だ」
悪魔の身体が地面の中へと引きずりこまれていく。最後の悪あがきで悪魔が闇の魔術で山ごと吹き飛ばそうとすれば、『裁定』の神の拳が顔にめり込んだ。
「せいぜい女神たちに奉仕をするんだ」
そのまま悪魔はひどい断末魔をあげて姿を消す。
マックスさんが手を翳すと大地は、ひとりでに元の姿になった。
「サラマンダー、火のドラゴンよ。目を覚ませ」
マックスさんの呼びかけに応じたかのようにサラマンダーとドラゴンが身体を起こし、瞬きを繰り返した。
「正気に戻ったか?」
「マクシミリアン、我らはいったい?」
「悪魔に操られていた。魔王が復活したぞ。魔王の身体を形作ろうとした悪魔に操られ、人間たちが戦を生じさせるためのきっかけづくりをさせられていた。記憶にないか」
サラマンダーとドラゴンは互いの顔を見合わせ、マックスさんに頭を垂れた。
「それは相すまなんだ」
「お主の手間を掛けたな」
「謝るなら自分の妻子と、おまえたちを信奉する者たちに謝れ。この者たちに治癒の加護を与えてくれないか」
「ああ、もちろん」
「我らのつけた落ち度による傷。承ろう」
そうして僕たちは、サラマンダーとドラゴンに傷を治してもらった。魔力も漲 っている。
「ドラゴンの末裔たちが作った巻物を見られるようにしてほしい。お主たちの力が必要だ。頼む」
サラマンダーとドラゴンの目が僕の方へ集中する。
「よかろう」
「借りは返す」
そうしてサラマンダーとドラゴンが巻物へ火を吹きかけた。
ともだちにシェアしよう!