104 / 112

第18章 そばにいたい6

 気恥ずかしくて「言わなきゃ駄目ですか?」とポソポソ呟く。  マックスさんは期待に満ちた顔で僕の答えを待っていた。 「痛くなかったですし、すごく気持ちよかったです。やさしく触れていただいたので、最初の怖いと思う気持ちも、気づけばなくなっていました」  マックスさんが、でれっとした締まりのない顔をする。 「まったく僕のことをかわいいだとか、綺麗だなんて言って求めるのは、あなたくらいですよ」 「そう言われてもな……オレの目にはルキウスがそういう風に見えるんだよ。こんなことで嘘ついてどうする!?」  大声で抗議するマックスさんがなんだかおかしくて、クスクス笑ってしまう。 「あなたって不思議な人ですね! ……まぐわうことがこんなに心地よく、幸せになるものだと初めて知れました。マックスさんのおかげです」 「それは光栄だな。けど、頼むからオレで最後にしてくれよ。目移りしたら嫉妬でどうにかなっちまいそうだ!」 「ご安心ください。ずっとマックスさんのおそばにいますから」  頬や額にマックスさんの唇が触れ、「あー……」と彼が僕の頭の上で声をあげる。 「駄目だ、癖になっちまう。これ以上おまえのことを好きになって、どうしろって言うんだ。好きだ――ルキウスのことが、好きでおかしくなりそうだ」 「僕もあなたが好きですよ」 「さっさと英雄をどうにかして偽の神子やエドワード王子を倒すわ。そうしないとルキウスとデートをすることも、こうやって抱き合うこともお預けを食らうからな」 「マックスさんは僕と次を望んでくださるのですか? デートも?」 「当たり前だろ!?」とマックスさんが飛び起きた。「なんだよ。身体の関係だけだと思ったのか? 冗談じゃないぜ! オレはもっとおまえと仕事のない日にどっかへ出かけたり、のんびり過ごしたいし、こういうこともいっぱいしたいのに」と嘆いた。 「わずらわしく思われないのですか?」 「なんで? 好きなやつと一緒にいたい。過ごしたいと思うのは普通のことだろ。オレはもっとおまえと時間をともにして、おまえのことを知りたいんだよ」  そう言ってもらえてうれしくてムズムズする。胸が温かくなって頬が自然と緩む。  しばらく沈黙したかと思うとマックスさんが口を開いた。 「話は変わるけどさ……『裁定』の神とはどこで出会ったんだ。あれは今は亡きアトランティス王国の神だろ」  あまりにも突拍子もなく尋ねられ、僕は目を丸くする。 「ほら、他の連中とルキウスのエピソードを聞いたり、見たりはしたけど。あの神については知らないから……」  寝物語にしてはずいぶん色気のない話だ。でもマックスさんが僕のことを知りたいと思ってくれているのかな? と昔話をする。 「『裁定』の神と出会ったのは、四つのときです。今は亡きアトランティス王国の遺跡を博物館に見に行ったんですよ。光り輝く黄金の調度品も、色鮮やかな宝石のアクセサリー、不思議な絵の描かれた薬壺や、庶民の暮らしを模した粘土細工も、どれもすてきで子ども心に胸が、ときめきました」 「……なるほどな。それで、『裁定』の神とはどう出会ったんだ?」 「博物館の中で出会いました。僕、ぼうっとしていて、兄や両親たちとはぐれてしまったんです。その上意地悪な貴族の子たちに倉庫へ閉じ込められてしまって。ずっと泣いていたら、夜になっちゃいました。不思議なご夫妻がどこからともなく現れて、僕のことを助けてくださったんです。  博物館の中をいっしょに歩いてもらって、いろんなことを教わりました。アトランティス王国が天変地異で一夜にしてなくなってしまったこと、海の中に家屋や王宮、財宝が眠っていることを」 「うん……」 「『愛と戦い』の女神様に呪われた悲しい王子様の話も聞きました。神様が天上と地上に奥様を持ったことに怒った『愛と戦い』の女神様が、神様の子である王子様に三千年生きて戦い続ける呪いをかけてしまったんです。愛を知るまで王子様は旅を続けるおとぎ話……。すごく悲しくて、切なかったです。  それでご夫妻から別れ際に「困ったときは『裁定』の神を呼びなさい」と教わったんです。気づいたら家の前にいました。ひどい意地悪やいじめを受けたときに、『裁定』の神を呼んだんですけど、いじめっ子がかわいそうになるくらい、罰が重くて。僕も先生たちにひどく怒られちゃって……。それでいつの間にか魔法や魔術を使えなくなっちゃったんですかね?」  神妙な顔をしてマックスさんが無言でいた。 「マックスさん?」 「英雄……見つかりそうだぞ」とマックスさんが突然、切り出した。 「本当ですか!」  僕は胸がいっぱいになり、ガバリと起き上がった。  マックスさんも起き上がって、あぐらをかく。 「ああ、本当だ」 「それって巻物に書かれていた内容ですよね。どうしたら英雄と会えるようになりますか?」 「南の国の果てに暗黒街道っつーのが、あるんだ。そこを、ある人物が通り抜けると英雄がこの世に現れる」 「ある人物? いったい誰が……」

ともだちにシェアしよう!