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第19章 最後の試練1
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マックスさんとすてきな一夜を過ごせた。……あの後も、お風呂の中でたくさん求められて何度も抱きあった。
でも不思議と体調がいい。
いっぱい中に出されたのにマックスさんの後始末の仕方がよかったのか、おなかも痛くない。
マックスさんと過ごしていると身体が元気になる。無理をするとすぐに熱出していたのが、嘘みたいだ。
ご飯もたくさん食べれるようになって、胸の痛みも治まっている。
ギルドとして自分で走ったり、戦闘のために身体を動かしても、つらくない。普通の人のように運動をできるようになったのが、うれしい。
「幸せそうですね」と母様が僕に笑いかける。
「はい、とても」
「マックスさんの姿が見えませんが、どうしたのですか?」
「マックスさんは今、人さがしをしているんです」
「まあ、それは大変ですね」
「はい……」
早ければ三日、長ければ一週間かかると言っていた。英雄がマックスさんの話を真摯に聞いて、協力してくれたたいいんだけど。
「ところでルキウス」
「なんでしょう、母様」
「あなたもアレキサンダーやウィリアムのように家を出ていくのですか? マックスさんのおうちで、ふたりで暮らすの?」
「めどがついていませんが、ゆくゆくはマックスさんのおうちへ移らせていただくことになりました」
「やっていけそうですか? アンナさんのところやお母様と違って、わたしは従者たちに任せっきり。あなたに生活の術を何ひとつ教えなかったでしょう。お掃除やお洗濯、お裁縫、お料理なんかも必要だとメイドたちから聞きましたが……」
「お料理は少しですがマックスさんに習いましたよ」
「あら、そうなの!」と母様が感嘆する。
「はい、見た目は不格好ですが、味つけは上手にできました。マックスさん、ひとりで暮らされていた期間が長いんです。だから掃除・洗濯・料理にお裁縫、なんでもござれで」
「すてきですね。無骨な剣士という見た目からは想像もつかないほどにマメな人なのね」
「そうなんです。おうちも大きくて広いんですよ。王様みたいな寝室や、古いお皿や盃がある私室、温泉のお風呂に、牧場なんかもあって……」
「やっぱりラーメスたちの言う通りなんですね」
母様が頬に人差し指をあて、小首を傾げる。
「ラーメスがオレインたちと話していたのよ。マックスさんはどこかの国の王子か貴族の出で、戦争でご両親を亡くして奴隷になったんじゃないかって」
僕は母様の言葉に瞬きを繰り返した。
「剣士として名を馳せるために粗野な態度をとっているものの、あんなにマナーがなっていて紳士的な人なんですもの。おまけに所作が洗練されて気品に満ちています。あれは幼いころに厳しく教育係や保護者にしつけられた名残です。身分を気にしないと言った手前、いまさらうやうやしく扱うわけにもいかないので困っています」
行儀が悪いとすぐに鞭で手を叩かれ、貴族としての行儀作法を家庭教師やマナー講師に叩き込まれたことを思い出す。
「マックスさんたら、ギルドのお給料を宿代のように出すので弱ったものです。あの人の人間としてやるべきことをやる、道理を守ろうとする姿勢はすばらしいですよ。ただ……今後わたしたちの義理の息子になるのに、少し水臭いと思いましてね」
「母様、マックスさんをクライン家の一員に認めてくださるのですか」
「もちろんですよ。ラーメスも口ではとやかく言ってますが、マックスさんを認めています」
父様がマックスさんのことを認めている。その事実にじんわりと胸が熱くなる。
伝書鳩が外から飛んでくる。
きっとマックスさんからだ。英雄を近くまで連れてきているのかも!
僕は鼻歌を歌いながら手紙の封を丁寧に切った。
しかし、そこにはそんなうれしい情報は載っていなかった。
「ルキウス、どうしたのです。顔色が真っ青ではありませんか」
「母様、今すぐ父様と兄様に連絡を取ってください。おば様を保護しないと」
「いったいどうしたのですか?」
「義姉様と双子たちが……偽の神子に攫われました」
母様は口元に両手をあて、ひどくショックを受けていた。
「マクシミリアンさんに連絡を」
「駄目、それだけは絶対にできません!」
僕は武装もせず、武器も持たずの状態で厩へ駆ける。
「行くよフロレンス、走って!」
フロレンスが嘶き、猛烈なスピードで駆けていく。
拝啓 ルキウス・クライン様。
常日頃から僕の邪魔をしてくれるあなたのために、盛大なパーティを行いたいと思います。
ぼくたちの最後の戦いです。どちらが生き残るのかを賭けてゲームをしましょう。
時の塔で首を長くして待っています。
絶対にひとりできてくださいね。
あなたのために、あなたのお兄様が大切にしているアンナ姫の身柄をお預かりしました。
日没までに来なければ、アンナ姫の命はありませんので悪しからず。
追伸 早く来ないと双子のどっちかが死んじゃうよ?
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