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第19章 最後の試練2
*
フロレンスが時の塔の階段を駆け上る。
最上階には偽の神子と素行の悪い重臣たち、やり直す前の世界で偽の神子を信奉していた神官たち、そして――縛りあげられた義姉様とエドワード様がいた。
「ルカくん……」
「義姉様!」
僕はフロレンスから下り、義姉様の元へ駆け寄る。
「動くな」とノエル様が義姉様の喉元にナイフをあて、足を止めざるを得なくなる。
「おまえが動いたらこの女の命はない。それとも、先にこのチビどもを地上へ落としてやろうか?」
「かあしゃま、おじちゃまー!」
「こわいよ……おうちにかえして……」
神官たちが、鳥かごの中に押し込められ泣いているアポロンとアルテミスの入った鳥かごを、乱暴に揺さぶる。
「どこまで非道な手を使うんですか……幼い子どもとその母親を人質にするなんて!」
「うるさい! おまえがいけないんだろう。ライアーを消したりするから」
「道化のふりをした魔王にかしずく悪魔のことですね」
「悪魔じゃない。彼はぼくの『救い』の神だったんだ。この世界に僕を召喚してくれた。ぼくを平凡な、どこにでもいる人間から特別な神子にしてれたんだよ。悪役令息であるおまえと、あのマックスとかいう悪党のせいで全部めちゃくちゃだ!」
偽の神子が悔しげに歯ぎしりをする。
「ノエル、こんなことをしてどうする!?」
義姉様の隣で縛られ、身体中に怪我をしているエドワード様が叫んだ。
「ノエル様、なぜエドワード様を縛っているのですか……彼はあなたの恋人でしょう?」
「ルキウス、俺はこいつらとは無関係だ。俺も攫われて、ここへ連れてこられたんだよ。信じてくれ!」
――訳がわからない。
「そのエドワードは、ぼくの知っているエドじゃない」
ノエル様がわずらわしげにエドワード様の顔を蹴り上げた。
「彼は悪魔を信奉しているのでしょう? 事実、やり直す前の世界では、あなたの共犯者だったはず」
「そうだよ。おまえが巻き戻した世界でのエドは僕らの味方であり、よきパートナーで君主だった。自ら魔王の器になると誓いまで立ててくれたんだよ。だけど、魔王を信奉する前は、異国の『天空』の神を信奉していた。おまえが使役するアトランティス王国の『裁定』の神の父親をな」
ここでも『裁定』の神が出てくるのかと、僕は驚愕する。
そしてエリザさんが言っていた意味を理解した。
蛟の主だって東国の神だ。でもクロウリー先生たちは“邪神”と言っていた。
生まれは異国でも、働く場所はフェアリーランド王国。
この国で正式に神と呼ばれる存在は天上に棲む神々だけだ。土着神のサラマンダーやドラゴンだってフェアリーランド王国内で敵視されたり、問題視されている。
だからクロウリー先生たちは、見知らぬ異国の神を悪魔や邪神と呼んだ。
じゃあエドワード様は……。
「おまえが歴史を大きく変えたせいで、エドワードは僕の知っているエドから大きくかけ離れてしまった。ライアーも消えた今、僕が頼れるのは魔王だけ。でも魔王は復活するまでに時間がかかる。おまけにユダはぼくを一切信用していない」
「ヤケを起こしたというのですか。そのために僕やエドワード様を始末すると?」
「そうだよ。おまえらふたりをここから突き落として、心中したことにする。テロでもなんでも起こしてやるよ。王と王子たちを殺して、僕がフェアリーランド王国の新しい王になるんだ」
「なんと愚かなことを……」
「ぼくを馬鹿にするなよ。ガキの命は、こっちが握っているんだからな」
うおおっと階下から雄叫びがする。
地鳴りのように人の足音がする。
「そこまでだ、ノエル! 俺の妻と子どもを返してもらうぞ」
兄様がだった。部下の騎兵隊たちを引き連れている。すぐ近くにはビルや父さま、ピーター、近衛兵たちがいる。
その中には武装した王様とアーサー様、シャルルマーニュ様の姿もある。
「ノエル、余を騙したのだな……」
「重臣や神官たちも結託し、王室を騙して陥れる算段だったとは、この不届き者め!」
「わたしたちの弟を即刻返し、人質を引き渡すのだ!」
重臣たちや神官たちは王様たちの姿を目にすると、その場で跪いた。彼らは王様に許しを請い、見苦しくも弁解した。神官たちが魔術を使ってエドワード様と義姉様のを王様に差し出した。
すぐに兄様と近衛兵たちが、姉様とエドワード様の縄を解いた。
「アンナ!」
兄様が義姉様を力強く抱きしめる。
「アル……双子が……アポロンとアルテミスが……」
偽の神子は闇の魔術を使って、最後の切り札といわんばかりにアポロンとアルテミスを人質に取っていたのだ。
「観念しろ、ノエル。俺の孫を0解放するんだ!」
父様の呼びかけに偽の神子はひどく苛立ち、親指の爪を嚙んだ。
「クソ、クソ、クソッ――なんで、こんなに上手く行かないんだよ!」
「ノエル様、もうやめましょうよ。こんなことをやっても意味がありません」
「意味がないようにしたのは、おまえだろ!? なんでだよ、なんでぼくの幸せを壊そうとする!」
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