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第12話 携が受験した理由

 その夜、俺は如何に浩司先輩が格好良かったかについて語り、げんなりしつつもちゃんと耳を傾けてくれる携の部屋に消灯前の点呼まで居座った。 「そういや、同室のやつっていねえの? ドタキャンなのかな」  ふと気付いて質問すると、何を今更と携に呆気にとられた。 「詳しくは判らないけど、何か家庭の事情で寮に入るかどうかまだ揉めてるらしいぞ。取り敢えず同じクラスのヤツじゃないのは確かだけどな」 「そっか……」 「環境がいいから入りたいやつは多いけど、全寮だからって諦めるヤツもいるのは確かだろうな。これで街の近くにあったら凄い倍率だったろうし」  話題が変わってほっと息をつきながら、携が説明してくれる。  俺ってば本当に会いたい一心の勢いで受験しちゃったから、この学校についての予備知識が殆ど無い。大半は学校の環境とか授業内容が気に入って受験したんだろうに、きっと校内一不純な動機の新入生だろう。  ま、恥じてはいないけどな! 「そんなにすげーガッコなのか?」  空のベッドを占領して胡坐をかいている俺の前に腰掛けた携は、じっと見上げる俺の頭をまたぐりぐりと撫でたり小突いたりした。 「まず、れっきとした会社経営だぞここ? 解ってるか? 県や国に雇われた人間は働いてないんだぞ? 俺たちはその専門訓練所に入っている見習いだ。だから県立に通うよりは高くつくけど、私立+寮費くらいの破格の学費で通うことが出来る。加えて、ここを経営してるのは天下のSSCだ。通っているだけで将来の就職先は半分くらいは保障されているようなもんだ」  どうだ、凄いだろうと言わんばかりに珍しく鼻息荒く語る携だったが。 「……えーと、ごめん、SSCってなんだっけ」  そう洩らした俺をみて、本日二度目の「なんだこの珍獣」っていう視線を浴びせられてしまったんだけども。 「──俺、二年近くお前と付き合ってて、大体お前のことは理解してると思ってたけどさ。そこまでバ……物知らずというか世間知らずだったとは」 「おい、今バカって言おうとしただろ」  むっとする俺を可哀相な子を見るような目で見下げるのはやめてくれ。 「シルバー・シュバルツ・コーポレーションを知らないヤツが俺の身近にいた方がびっくりだよ! 世界のIC一手に開発製造している超大手企業じゃねえか!」 「へー、すげーな! そんな会社が学校経営に乗り出したんだ」  素直に感嘆の声を上げると、力んでいたのがあほらしくなったのか携は握り締めていた拳を解いた。 「まあ日本じゃあまり関係ないけど、連邦のマザーコンピューターもSSCの開発だってもっぱらの噂だ。つまり連邦主席が表の権力者ならSSCのトップが裏の総元締めだ。そのSSCの二代目と言われているローレンス・シュバルツが趣味で作っちゃったよってのがこの学園だ。以上! 解ったか!?」 「わ、解ったっ」  両手を膝頭においてコクコクと頷くと、ようやく一安心したのか携はそのままごろんとベッドに上半身を預けた。  何だか凄い学校だってのは解ったけど、正直凄すぎてやっぱり俺には関係ない領域の話みたいだ。  でも、そっか~。携が俺と一緒に受験したのは、そんな凄い学校だから本当に純粋な気持ちで入りたかったんだろうな。たまたま俺も志望したってだけで。  ──ホントはちょっとだけ……ちょっとだけだけど、俺のこと一番優先してくれてるみたいで嬉しかったんだ。  勿論その気持ちに変わりはねえけど、でも一番の理由じゃあなかったんだって知ったら、ちょっと悔しかった。  そんなの携の人権無視してるって感じで自分でも嫌だ。  けど……ちょっとだけ寂しかった。絶対口にしちゃ駄目だけど。 「あ、と。じゃあそろそろ点呼始まる時間だし、自分の部屋帰るな。長いこと居座ってゴメンな」  夕飯と入浴の後ずっとここで喋り続けていたせいで、明日の予習なども出来ずに迷惑をかけちゃったな、とはたと気付いてそう告げた。  いつも嫌な顔一つしないで俺の事情に付き合ってくれているけど、携は本来は一人で読書したり勉強したりするのが好きな性格なんだ。本当に迷惑ばっかり掛けちゃってる、俺。  あたふたとベッドから下りて室内履きを突っかけてドアに向かう。 「んじゃ、おやすみ〜」 「んなに慌てなくても大丈夫だろ、まだ」  不思議そうに追ってくる視線を振り切るように、「ありがとなっ」と言いながらドアを開けて返事も待たずにそのまま閉めた。

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