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第13話 基礎練だけでヘロヘロです

 翌日の放課後、言われたとおりに俺はTシャツとハーフパンツ、谷本はスウェットに着替えた後中庭に集合した。体育の授業も特に体操服があるわけではないので銘々が動きやすそうな服装でやってきている。浩司先輩も白いTシャツに黒のジャージだ。何着ても様になってるなあ。  今日は大太鼓は用意されていなくて、三年生四人が既に援団立ち。何となくだけど俺たち下級生もそれに向かい合うようにぱらぱらと並んで立った。遅れる者もなく、なかなか優秀? 「よし、全員揃ったな。今日は応援の基本、声出しからだ。エール交換以外は当然応援がメインなんだから、喉潰さねえように腹から声出す練習な」  浩司先輩がぐるりと見回して告げた。 「最低でも、俺たち三年とお前たちで同じくらいには出せるようになってくれねえと困る。先にやって見せるからこっちの声が途切れたら同じように声出してくれ。いくぞ」  ちらっと三人に視線を遣り、先輩たちは同時にすうと息を吸った。 「いよーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!」  腹の底から出しているのが判る、太くて低い声が空気を震わせて校庭を響き渡っていった。真正面にいた俺たちなんてまるで声に押されたみたいに思わず仰け反っていた。  先輩たちは僅かに背を反らして斜め上の空に向けて声を吐き出し続けている。凄い声量だ。  俺も声細くはないと思うけど……出来るのか?  そろそろ息継ぎをするだろうと思い、隣の谷本と視線を交わし頷き合った。タイミングを合わせて空気を吸い込み、下腹に力を入れて同じように声を出す。  ──いや、出したつもり、でした。  結果的に、全員三年生から駄目出しをくらい、グラウンドを突っ切ってフェンスの際まで行って一列に並ぶように言われた。三年はグラウンドの手前、校舎に近いところにいるので、一人づつ声出ししてOKが出るまで続けるというもの。  みっちり十八時前まで続けてようやくギリギリ全員が及第点をもらい、その日は解散となった。  鬼です、鬼教官がいますよ先生! でもそんな先輩も素敵ですっ。  へろへろになった俺たちは、そのままの格好で荷物をぶら下げてほうほうの体で寮まで辿り着いた。  谷本と別れて自分の部屋に帰ると、汚いのは承知でそのままベッドに倒れ込む。  うう、自分が汗臭ぇ……。喉痛い……。 「生きてっかー?」  先に部屋に帰って来ていた智洋が声を掛けてきた。  きっと机の辺りにいたんだろうけど全然目に入ってなかった。それどころじゃねえ。なんとか右手を挙げて返事らしき呻き声を上げると、足音が近付いてきた。 「いや~凄かったなあ。教室まで響いてきてたから、残ってた連中窓に鈴なりになって眺めてたんだぜ。やっぱ応援団ってキツそ~」  そう言う智洋は仮装行列で着て歩く方の役らしい。何するか知らないが、当日以外はそんなに仕事が無いようだ。ちょっと羨ましい気もするけど、自分で望んでやってることだから泣き言は言わない。  言わないったら言わないんだ! 「可哀相だけど、すぐ食堂行かねえと食いっぱぐれるぞ~。ちょっと待っててやるから復帰しろ?」  茶化すような物言いだけど、そっと肩甲骨の周りを撫でてくれる手の平は優しかった。数分だけそれを堪能して、俺はよっこいしょと体を起こす。 「サンキュー! 休んだら少し元気出てきたっ。腹減ってっし、行こ行こ」  軽くストレッチをして筋肉を解すと、連れ立って食堂に向かった。  出入りの多い時間は開きっぱなしになっている出入り口を入ろうとしたところで、談笑しながら出ようとしている浩司先輩に出会った。隣には相変わらず金髪王子がいる。鞄を持っているところを見ると、自室に上がるのが面倒で直接ここに来たんだろう。 「おす、お疲れ様ですっ」  ついついそんな風に言ってしまった俺に、金髪王子が吹き出した。 「くっ……か、可愛いっ」  そんな連れをさらっと流して、自分の言った台詞はそんなに恥ずかしかったかと顔を赤くしている俺の頭に、一瞬だけぽんと手の平が載って去って行く。 「お疲れ」  階段へと向かう後姿を眺めながら、今しがた触れられた部分にそっと手を当ててみた。まだぬくもりが残っているような気がして。

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