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第31話 先輩からのお誘いです!

 翌週も同じように慌しく過ぎて行き、その間自分でもちょっと警戒していたんだけど、周からは目立ったアプローチはなかった。  教室では普通に喋っていたし、応援の練習にも一緒に行き解散後には他の連中とぞろぞろ寮に帰って来る。  そうしているうちにまた土曜日がやってきた。また早目に終わった練習の後、殆どのヤツは寮に帰ろうとする中で部室棟に向かおうとした俺に「この後どうすんの?」と周は気軽に声を掛けてきた。  内心、ついにきたか? と思いながらも、先週と同じ展開になるのは避けるために予め用意しておいた答えを言う。 「部活行って来る。あ、部じゃなくて同好会だけど」  一瞬考え、苦笑する周。 「あー……あいつらと一緒か」 「面白いよな~キャラの灰汁が強いというか」 「面白いには面白いんだろうけど……。まさかああいうのが好きなのか?」  余程苦手なんだろう、訝しげに問われた。  いやまあ俺だって公衆の面前ではやつらと一緒にいたくはないですけどもねっ!  この一週間、昼休みとか廊下でよくあいつらの誰かと擦れ違った。その時も「よっ」と軽く挨拶を交わすくらいでスルーして来た。サトサトなんか、昼休みはいつも中庭で日向ぼっこしてるんだもんな。上着の袖に両手を突っ込んで花壇の縁石に腰を下ろして目を線みたいにしている姿は、どこぞの宗教の悟りを開いた人みたいだった。  ──近寄りたくはない。  ただ俺はTRPGがしたいし、周と今二人きりになりたくないんだ。 「好きとかそういうんじゃなくて……」  好きっていうなら、純粋に一緒にいたいのはここでは携と智洋くらいだ。確かに浩司先輩には憧れているけど、気後れしちゃうし、ちょっと離れたところから眺めていたいというか。 「じゃあ明日は?」  食い下がってくるなあ。やっぱりそうなのかな……。 「明日は……」  言葉を濁していると、後ろからぽんと肩に手を載せられた。対面の周が驚いている。え? 誰?  振り返ると、至近距離に浩司先輩のご尊顔が。  ひいぃっっ! し、心臓止まるかと思ったっ!  勿論止まるはずのない心臓は飛び出しそうな勢いでバックンバックンいってるし、緊張して体はかちかちになるし、嬉しいやら恥ずかしいやらで顔がっ顔が熱いっ!  死ぬっ、もう死にそう……っ。  それなのに耳元で声がする。 「明日は俺と遊ぶんだろ? カズ」  今なんと仰いましたか?  肩に載った手が、くしゃりと俺の髪を掻き回すように撫でる。 「ビリヤード教えて欲しいって言ってただろ。明日昼飯食ったら遊戯室で教えてやるから、午前中に勉強済ませとけよ」 「は、はいっ」  勿論そんな約束初耳なんだけど、ここは素直に返事しとくべき!  電光石火で頷きましたよっ。石化が解けて良かった~……頭撫でられるとふにゃってなっちゃうんだけど、それがいい方に働いたみたい。  うっとりドキドキでそのまま浩司先輩を見上げていると、よしという感じで頷いて、それから周の方に顔を向けた。 「良かったら一緒に教えようか? ナインボールだったら初心者二人でやった方がいい」  え? 周も誘うんだ……。いやまあ別に二人きりじゃなくていいんですけど。緊張するし。  周の方は先輩の意図を図りかねて迷っているようだ。それでも数秒後には「お願いします」と頷いた。  じゃあなと軽く手を上げて引き上げていく後姿に「お疲れ様でした!」と声を掛けながら、俺はお辞儀して、引き止められないようにさっさと周にも挨拶してから部室棟に向かって駆け出した。

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