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第32話 キャラクターシート

 荒い息のまま部室の扉を開けた。前回、もうノックは不要だと言われている。 「こんにちはーっ」  飛び込むようにして入ると、先週と同じ面子。生徒会長……ホントに大丈夫なんだろうか。まあ平日にしっかり仕事をしているんだろうとは思うけど。つか、俺に心配されるほど落ちぶれてねえよな!  鞄とか荷物を壁際の木製ロッカーの上に置くと、キャラクターの種族と名前だけを記入したシートと筆記用具を持ってテーブルに着く。  さりげなく会長としげくんの間に座ることを忘れない。あいつら──特に小橋と間野の間に座るのは何かしら危険だと本能が告げている。 「そんなに急いで来てくれるとは嬉しいな」  俺の動きを目で追っていた会長がひっそりと笑っている。 「あっ、いえ、はいまあ」  周に呼び止められたくなかったからとは言えない。まだ若干弾む息のまま、俺はペンケースからダイスを取り出した。 「いい色じゃないか」  ほう、と会長が息をついた。 「ブルークリスタルダイスですね」  他の四人もテンションが上がって楽しそうだ。 「あーっ! 俺も欲しかったんだよなー! けど行ける範囲の店にはなくってよお。俺のと換えて」  間野の腕が物欲しそうに差し伸べられたが「駄目」と手加減なしに叩く。  これはなあー、清優の時に携と探し回ってようやく見つけた大事な大事なダイスなんだよ! しかも携の透明のと色違いのお揃いなんだかんな。絶対やらねえ。  前回もテーブルに載っていたから知っているけど、他のメンバーのは白くて小ぶりな普通の六面ダイスだ。持ち運びには便利だけどやっぱりここだけでもこだわりたかったんだ俺。  ホントは携も一緒にプレイできたら良かったんだけどな……残念ながら、携は『世界史研究会』なんつー俺には理解不能な部に入っている。なんで授業以外に勉強しなくちゃなんねーんだか。  キャラクターシートは基本的に他のヤツが見ているときにダイスを振り色々な数値を決める。だから俺は手の空いた時に名前やキャラクターの性格だけ考えてみた。ダイス次第で生まれも変わるから、そこら辺はまた設定を付け足さないと。 「じゃあよろしくお願いします」  俺は誰にともなくお辞儀をしてダイスを握って手の中で転がした。 「よし、じゃあ生まれからいこう」  大野会長がルールブックの後ろの方をめくった。  俺は手の中で数回転がしたダイスを目の前のテーブルに放る。二と四で六。数字だけ見ると平均値以下だが、生まれを決める時にはそう気にすることではない。 「六だと旅人だから、レンジャー技能一を持っている。経験点が三千あるから何かもう一つ覚えられるな。所持金は……」  言葉に導かれるままにダイスを振る。五と六で十一。やりーっ! 「2200ガメル。なかなかですね」  サトサトがぼそっと言ってるけど、アランは貴族出身だから間違いなく俺より沢山持っている筈。よっぽどダイス運が悪くなければ、だけど。  それはひとまずメモるだけで保留して、まずは技能を決めよう。といっても、もう心に決めているのがあるんだけどな。 「千五百点使ってシャーマン取得します」  俺の宣言に、四人の瞳が輝いた。おおーっとどよめいている。  色々考えた末、組み合わせ次第だと思ったんだ。最初からシーフになるかもしれないし、他のヤツと被るかも。その時はもう一つの技能は誰も持ってないやつにしようと思ってた。  そうしたらたまたまレンジャー持ってたから、ここはシャーマン取るっきゃないでしょ!   戦士系の職業と違い、魔法使いなどは装備に制限がある。それと組み合わせるなら、同じく装備が制限されるシーフかレンジャーで戦う方が都合がいい。  経験点が千五百残るけど、他の技能は取り敢えずは後回しにして、シナリオをクリア後に入る経験点で早目にレンジャーを上げて冒険者レベルを上げる方向で行くことにした。  そんなこんなで和気藹々と俺のキャラクター作りが進み、旅人のジェイクが誕生した。勿論男だ! 残念だったな小橋と間野めざまーみろ! 「ふうん。それならそれで」  小橋が何やら呟いていたけど気にしない……。  どうやら最初のシナリオは四人でクリアしたものの、俺とレベル差がつくのは面白くないということで、皆このキャラクターたちでの冒険は待っていてくれたらしかった。来週の土曜日にショートシナリオを一つプレイすることを約束して解散。  平日はカードゲームとかして遊んでるらしいよこの人たち。それはそれで楽しそうなんで、体育会が無事に終わったら俺も混ぜてもらおうっと!

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