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第41話 デートの誘い
翌週は巷では黄金週間と呼ばれる連休の始まりの週末だったけど、それは日祝休みの企業にお勤めの人だけの話。学生はカレンダー通りに金曜日が休みで土曜登校、日曜休み、翌週の火・水・木が連休だ。流石に三連休だと実家に帰る人も多く、俺もどうしようかと考え中だった。
携は迫る体育会に向けての準備もあり、執行部としてもクラス委員としてもここに残っている方が都合がいいと言う。智洋は俺が住んでいる襟川町と割と近い町に住んでいるせいもあり、実家に帰って何処かへ遊びに行かないかと誘ってくれている。
浩司先輩も用事で一旦帰宅すると聞いているし、それなら俺も帰ろうかなって気になった。そうとなれば智洋と一緒に一時帰宅の申請用紙を提出しなくちゃならない。これは寮長に渡せばいいから、割と皆気軽に一時帰宅しているらしかった。道理で日曜日に遊戯室が空いているわけだよな~。
全寮制とはいえ、元々家から通っていたヤツが大半で、まだ実家の方が恋しい時期だろう。俺や智洋は、姉貴がいないというそれだけでこっちの方が居心地良いものの、それは同室者がたまたま智洋で、仲良くなっているからそう思うだけで、ルームメイトにもクラスにも馴染めていない場合は、やっぱり週末くらいは自宅に居て近所の友達と遊びたいに違いない。
そういうの考えると、俺って凄く恵まれているなと思ってしまう。
木曜日、応援の練習後にエントランスに常備してある諸々の書類の入った引き出しから申請書類を二枚取ると、俺はいそいそと部屋に向かう──ところを腕を掴まれて足を止めた。
「カズ、明日暇?」
「今のところ空いてるけど、」
言い掛けて振り向いて危うく息が止まりそうになった。
周だった。
ひえーっ! 反射で答えちゃったじゃないかあっっ!
バックンバックン恐ろしいほどに跳ね上がっている心臓に慄きつつ、次に何を言い出すのかと待ってみる。
うー……迂闊だったよぉ……。声で判断出来なかった俺の馬鹿馬鹿馬鹿―っ!
明日丸一日予定入ってないの失念してたーっ!
「じゃあ、近くの街でいいからさ、買い物付き合ってくれよ」
「か、買い物?」
予想外の答えに気の抜けた声を出してしまった。
「そ。服とか? 俺ずっと寮にいたし、前のトコは基本的に一時帰宅も出来なかったから私服あんま持ってなくて。流行とかもよく判んねえし、選ぶの手伝って欲しいんだけど。……駄目かな?」
心許なそうに髪をかき上げて俯き加減にお願いされると、今更嘘の用事を作るわけにもいかなくて、俺は頷いてしまった。
「わかった。じゃあもしかして外で飯食うってのもあんまないよな? ファストフードで良かったら、昼も一緒に食おうか? バスで麓まで下りたら確か大きい商業施設あったから、そこ行ってみようよ」
「マジで? 行く行くっ。ハンバーガーとか食ったことないわ」
「有り得ねー! 覚悟しとけよ、引っ張り回してやるから」
嬉しそうに瞳を輝かせている周を見て、ほっと息をつく。掴んだままだった腕をぶんぶんと振ってありがとうと言われ、十時にエントランスで待ち合わせることにして別れた。
このまま本当に普通の友達になれそうな気がする。
実は、日曜日以降、夜に遊戯室でビリヤードの練習をしている周を見掛けた。その表情は真剣で、でも楽しそうで、そういうのと前の学校の話とを重ねてみると、只単に娯楽に飢えているんじゃないかって思うんだ。
今は昔の習慣引き摺ってるけど、ここならこうやって気軽に出掛ける事も出来るし、学校でも寮内でも遊ぼうと思えば選択肢は沢山ある。
ただ、今まで出来なかったから、束縛されていたから知らないしどうやって手を付けたら良いかも判らないだけだ。それなら、浩司先輩や金髪王子みたいに誰かが手を伸ばせば、どんどん新しいことに目を向けられる筈だし、そうすべきだ。
街に出れば可愛い女の子もいっぱい歩いてるし、周のあのスキル使えばナンパだって出来そうな気がするんだけどな~。流石にそれは早すぎるかな。
智洋も一緒に行けば、多分逆ナンされると思うんだけど……まずいか。勝手に誘ったら駄目だよな。俺だって、いくら二人きりのあの変な空気が嫌でも、他の事で周に嫌な思いさせたくねえし。
部屋に帰ってから智洋にも用紙を渡してそのままさっさと書き込み、いつでも渡せるように畳んでポケットに入れてから食堂に向かった。
携が指定席のようにいつもの場所を陣取っていたので、当然のように俺たちもいつもの席に座る。
今日の晩御飯は、ポークビーンズと海草サラダ、食べ放題の各種コッペパンとカットフルーツ。勿論ジュースと牛乳の両方を注いだ俺もいつも通り。
一心不乱に食べていると、いつも通り先に食べ終えた携に明日の予定を訊かれた。
「あー、午前中からちょっと街まで出てくる。買い物~」
言いながら、あ、これも外出届出さなきゃと気がついた。つうかこっちの方が急ぎだ。帰りにもっ回用紙取りに行かなきゃ。
「ふうん? じゃ俺も行こうかな」
不思議そうに若干首を傾げつつもそう言われ、
「あ、ごめん。友達と先約」
と手刀で謝る。
「友達? 栗原?」
「んん、周」
パンをちぎって頬張りながら何の気なしに答えると、左右の顔がくりっと俺の方を向いた。
「「谷本……!?」」
携は元々クラスメイトだから名前も知っているし、智洋にも問い詰められてこないだ外で言い寄ってきた相手の名前は教えている。
だから……二人の氷のような視線が痛いんですけど。
「ちょっと和明……ここじゃなんだから後でじっくりと話そうじゃないか」
「同感~。氷見、俺たちの部屋寄って行けよ。通りがかりだから丁度いいだろ」
「解った。じゃあこのまま二人が食べ終わるの待ってるから」
「え、ちょっ、あのですね……」
そろりそろりと左右の美形を見比べてオロオロしていると、
「「あとで聞くから」」
また二人ハモってるしー!
仕方なく俺はもそもそと黙って食べ続けたんだった。
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