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第47話 【幕間】高すぎるハードル
映画館のロビーは、入れ替えの際にかなり混雑する。一応混雑時に行っておいた方が良いかと判断した和明は断りを入れてトイレに行き、周一郎は少し人通りの少ない場所を選んで壁に寄りかかって腕組みをした。
「全く、心配性のおとんとおかんって感じだよなあ。お二人さん?」
誰にとも無く言うと、階段の向こうに視線を遣った。
しばらくして、のっそりと智洋が現れその後ろに携も続く。今は皆自分の席を確保するために急ぎ足で中に入っており、この二人に気付く者も少なく、また気付いても話し中と見て後ろ髪を引かれながらも去って行く。
「ご苦労なこって」
にやにやと笑みを湛えて見遣る周一郎に、二人は不本意そうな表情を隠しもしない。
特に話すこともなさそうな二人に対し、周一郎は違った。
「あのさあ、俺だって学園内は治外法権っていうことくらい、ちゃんと解ってんだぜ? 外で不用意に手ぇ出したりするかよ」
「信用できるか」
叩きつけるように、智洋が言った。周一郎は、ふんと鼻を鳴らす。
「余程大事なんだな、あいつのこと」
息を呑む智洋と、「当たり前だ」と断言する携。
「和明の好意を踏みにじるようなことをしたら、許さない」
静かに、けれど刺すようにまっすぐ、周一郎に視線を向けている。それを分かっても、周一郎は更に笑みを深くした。
「まあ、俺だって体だけじゃなくて心も欲しいしな……。けど、どうせお前ら二人とも友達としてしか大事にしてないんだろ? それだったら、俺が先に恋人の立ち位置になっても文句はねえよな」
入れ替えが終わったのか、扉が閉められロビーの人気はなくなった。
言葉を返せないまま立ち竦む二人とそれを少し離れて眺めている周一郎のところに、和明が戻って来た。
「お待たせ、周……と、あれ? 二人とも、」
ここはなんとか誤魔化した方がいいのか迷っている和明の肩を、周一郎がポンと叩いた。
「おー、なんか偶然同じ映画観てたみたいだな。さ、次は何処行く? カズ」
「あ、ああ。そうだな……ゲーセンなんてどうだ?」
「いいね、やり方教えてな」
二人の方を気にしながらも、周一郎に促されるまま和明は映画館を後にした。
「どうする?」
携の問いに「行くしかねえだろ」と応じる智洋。二人とも浮かない顔つきだった。
確かに、二人は和明に友情以上のものを抱いていた。本当は周一郎がしたいことを自分たちだってしたい。だが、和明の幸せが一番大事な二人にとって、そこに踏み込むには越えなければならないハードルが高すぎるのだ。
一歩踏み込んでしまえば、もう戻れはしない。
冗談で済ませられるボーダーラインをちまちまと確認しながら、少しずつ距離を縮めてきた二人には、周一郎のように一足飛びにそこへ行くことが出来ない。
親友というポジションを失って、果たして得られるのか。その位置を。
何もかも初めてで手探り状態で不安で。それでも手放したくない大切な存在に──なし、と判断された時。
その時、自分は一体どうなってしまうのだろう──……。
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