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第48話 バスでの攻防

 暫くゲームセンターで遊んだ後、十七時にバスロータリーに迎えに来る学園バスに乗り遅れないようにと駅前に戻った。  結局大きいショッピングモールまで行かなかったし、買い物らしい買い物もしていないけど良かったのかなあ。本人はひたすら楽しそうだったけど。  十分前に着いた時タイミング良くバスが入って来た。運転手さんに学生証を見せて乗り込むとき「おかえり~」とにこやかに迎えてもらった。  薄茶の目と髪を持っている運転手さんは、少しだけ伸びた髪を後ろでくくり、いつもにこにこと親しげに皆と言葉を交わしてくれる。年齢は不詳で二十代に見えなくもないけれど、誰かが学園長の従兄弟だと言っていたので実は四十とかなのかもしれない。 「肝心の服、ちゃんと見れなかったな」  周に促されるまま後ろから二番目の座席の窓側に腰掛ける。まだ近くに携と智洋が見えないけど、晩御飯に間に合うように帰るにはこの便しかなくて、ちょっと気になっている。 「ああ、まあ口実みたいなもんだから」 「口実?」 「カズと二人で出掛ける口実」  しれっと言いながら流し目された!  もうやだこの人、女の子捕まえてからそういうこと言って下さい!  呆気に取られてしばらくフリーズして、そうしたら膝の上の手を取られて指を絡められた。  流石にこんなところで映画館みたいなことをされるわけにはいかなくて、上に持ち上げられるのだけは力ずくで阻止。 「そんなに熱烈に握り締めなくても」 「いやいやいや、握りたくて握ってるわけじゃねえから」  持ち上げようとする周と、下ろそうとする俺と。  拮抗していた力が急になくなり、そのままぐいと下に引かれる。 「え?」  気付いた時には周の腕の中に頭が。  そんで口の中に長い指が入ってきて、舌を挟みこむように拘束されていた。 「っん、ふぁっ……!」  抗議しようとしても、声が出なくて、 「着くまで寝てなよ」  なんて言いながら、周にもう片方の手で頭を撫でる様にしながら顔が斜め下を向くように微調整されて、前のシートの裏側しか視界に入らなくなってしまった。  バスが発進して、揺れが周の太腿から伝わってくると本当に段々眠くなってくる。首の方から回されている腕と後頭部にあるもう片腕とで通路側からは遮られて俺の顔とか見えないだろうけど、客観的に見てこの状況どうなんだ……?  口が開いたままだと唾液を飲むのも一苦労で、どうしても唇は閉じようと動くし舌だって暴れてしまう。けどその動きが結果的には周の指を吸ったり舐めたりすることになり、それに気付いただけで恥ずかしくて体が震えた。  指先が少しずつ動いて、上顎に当たる。ぴくんと反応してしまい、そのまま軽く触れるか触れないかで動かされて、体が熱くなるのが分かった。  口の中の温度も上がったんだろう、周が屈みこんで耳元で囁きを落とす。 「感度いいな、カズ」  その声にすら、反応してしまう。  ふええっ、ホント何がしたいんだよ周―っ!  またからかわれてる? 新種のいじめですか? 周って好きになったら苛めるタイプなんだな?  拷問に近い数分間口の中を思うさま蹂躙されていると、突然座席が後ろからガンッと蹴られた。  驚いたのと怖いのとで固まっていると、「いい加減にしろよ」と地を這うような智洋の声。  一番後ろに乗ってきてたんだ!?  名残惜しそうに口から抜かれた指先が、最後に唇を撫でていった。  学園前に着いてバスから降りると、後から降りて来た智洋と携が両脇に立ち俺の腕をガシッと拘束。 「はい到着、はい解散っ」 「晩御飯食べに行こ」  先に降りていた周の前を、半ば持ち上げられるようにして通り過ぎ靴箱に連れて行かれる。 「またなー」  と言った後にくすくす笑っている声が聞こえ、めちゃ恥ずかしいんですが。  だってさ、なんかこれってお父さんお母さんの間にぶら下がってる子供みたいじゃん……。  同室の智洋とは靴箱も上下になっていて、そのまま二人で履き替えて、少し離れたところの携と合流して食堂に向かった。  食事中はいつもあんまり喋らない俺たちだけど、なんか二人の表情がちょっと硬いのが気になった。  うーん……俺と周の間にあったこと、二人はどれくらい知ってるんだろ。  どうやら周も一応人目は憚っているみたいだから、全然気付かなかったってこともあるだろうし、いちいち全部報告するほど酷いことされたわけでもないしな……。あれくらいなら、部屋で携と寛いでいる時と変わらないし、やっぱり良くあることなのかなあ。俺が意識しすぎなだけで。  自意識過剰って思われるのもヤだな……。  なんだか湿っぽい空気の中で食事を終えて部屋に帰ると、手付かずだった課題と予習をやっつけてから風呂に入ってそのまま寝た。  あんまり深く考えるのはよそう。

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