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第49話 需要と供給
翌日、俺は日直だったので、四校時が終わった後早めに持ち場の掃除を切り上げて、授業で使った世界史の大きな地図を片付けるために社会科資料室にやってきた。
そんなに重いわけじゃないけど長いので引き摺ったりぶつけたりしないように周りの棚に気を配りながら元あった位置にしまう。もう一人の日直が日誌を書いてくれているので、その間の肉体労働だ。
今日の所感とか書くの苦手なんだよな~。
よし、教室に帰ろうと踵を返した途端、行く手を阻まれた。
なんだか肉付きのいいガタイの二人が進行方向に並んで立っていて、只でさえ棚に囲まれて狭いのに、これじゃあ擦り抜けていくことも出来ない。
「ちょっと……通して欲しいんだけど」
見上げると、上級生ではなさそうだけどクラスは違うらしく知らない顔だった。二人してなんだか下卑た笑いを含ませてじろじろと俺を眺め回している。
「ショートホームルームに遅れちゃうじゃんっ」
焦れて少し強めに言うと、ようやく片方が口を開いた。
「お前だよな? 昨日周と出掛けてたの」
「そうだけど……?」
なんだ。周の友達?
「なあ、あいつに躾けられてるんなら俺たちの相手もしてくれよ」
「需要と供給合わなくてさ、溜まってんだよな」
ぐいと寄って来られて、自然と後ずさってしまう。
「な、何の話、だよ……」
怖い……あの視聴覚教室での周の時より数段怖いし、全然知らないやつだし気持ち悪い。
「周、ホント見つけるの上手いし面食いだよなあ。お前、めっちゃいい声で啼きそう」
舌なめずりすらしそうに見詰められて、吐き気がしてくる。
腕が伸びてきて、俺はどんどん後ろに追い詰められていった。捕まったら何をされるか判ったもんじゃない。けど、もう逃げ場がない。
「だ、」
恥ずかしいけど大声を上げて誰かに知らせないとと思った瞬間、ガッと大きな手の平で口元を押さえつけられてしまった。
「ふぐ……っ」
勢いでそのまま壁に叩きつけられて後頭部を打ち、目の前に火花が散った。
「おいおい、傷なんかつけるなよ」
もう一人が呆れた声を出し、ブレザーのボタンを外していく。シャツの前も全開にされ、手際良くスラックスの前も全て開けられてしまった。
「っぅ、」
必死で声を出そうとしても、手が外れない。さっきの衝撃で手まで痺れが来ていて、相手の手を引き剥がそうとしても殆ど力が入らないので無意味だった。
そのまま下へと引き摺り下ろされて、壁に背を預けたまま足を開かれて体を捻じ込まれる。
嫌だ……絶対に嫌だ。こんなところで、こんなやつらに好きなようにされるなんて許せない。
でも、俺は無力で、肌の上を這う指や舌も快感なんて全然与えてはくれなくてただ嫌悪だけしかないのに、せめてもの抵抗に涙を堪えること位しか出来ない。
その時、ガツッと鈍い音がして、からからとドアが開く音がした。
「え!?」「俺ちゃんと鍵閉めたぜ」
二人の手が止まり、愕然と入り口を振り向く。次の瞬間にはもう二人の体は床に沈んでいた。
ずっと目を見開いていた俺にも何が起こったのか全然分からなかった。
ただ、二人の背中を踏みつけるようにして、目の前にしゃがんでいた人がゆっくりと立ち上がった。
「──だから気をつけろよって言っただろ」
讃岐だった。
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