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第69話 対戦ゲームにハマっています
「女子でもあるんだよね、そういうの。全部ひっくるめて凄すぎて、まあ彼女の場合はお兄さんたちがいたから男子はなかなか容易には近付けなくて、それはそれで肝心の好きな相手にも本心が言えなかったみたいだけど」
「ふうん、シスコン?」
「有り体に言えばそうね」
ふふ、と微かに笑むその表情を見て、思い出す。
いくら学年が違っていても知っているその有名人のことを。
みっくんの妹、美里が話してくれた真実。そして、美里が姉貴を大嫌いだと豪語するその理由も。
姉貴が今言った女子が美里の大好きな近所のお姉さん。そして好きな人というのがみっくんであったこと。
「結局はそう……外見が良くて性格が良くて、頭も良くて……世間から恵まれていると羨ましがられたり妬まれたりしている人たちも、思うようには生きていけない。そういうこと」
とつとつと語る様子は、俺じゃなくてまるで自分に言い聞かせているかのようだった。その瞳に、俺は映っていない。
結局何が言いたいのか解らないまま、それでも俺は黙って座ったままでいた。
再生が終わったビデオテープが砂嵐になり、停止ボタンを押してから巻き戻す。ガーッと音を立てる機械に反応したのか、ハッと姉貴の瞳に光が戻り腰を上げた。
「おやすみ」
「おやすみー」
通る幅だけドアを開いてそっと廊下に出て行く華奢な背中を見送って、なんだかわけもわからず寂しくなった。
誰だって、思うようにならない人生に足掻いている。
理不尽な理由で一方的に別れを告げられるばかりだという智洋も辰も。付き合わずに本人やそれ以外の外野に言葉や行動で嫌がらせを受ける携も。
そして、俺には解りようもない理由で本校から分校に移ってきた全ての先輩たち。
これからの学園生活が全員にとって楽しいものになりますようにと願いながら、テープをデッキから取り出して丁寧にケースに収めた。
まずは完璧に振り付けを憶えて応援合戦を成功させること。
地道に一歩ずつ前進してみよう。俺に出来ることって、そんな些細なことだと思うから。
翌朝、早起きして駅から少し離れた場所にあるボウリング場に向かった。
早朝だと割引があって一ゲーム百円なんだよなー。
待ち時間が長ければ同じ建物の中にあるカラオケやゲームセンターで時間潰してもいいしと話がまとまった結果だ。
休日の朝八時は道行く人が少なくていい気分。大抵の店は十時開店だから、客の出足は遅い。それでも主に学生でごった返すボウリング場は、受付に紙を提出すると一時間待ちだった。
まあまだマシな方かな……。朝イチの六時とかでも殺到するから、敢えてゆっくりにしたんだけども。
カラオケに流れていく人の多い中、ちょっと迷う。一時間ってのはあくまで予測であり、回転が良ければそれより早く順番が来ることもある。遅くなることの方が希なため、ゲーセンで暇つぶしした方が合理的なんだよなー。
「どうする? ゲーセンでも構わない?」
昨日のこともあるから恐る恐る二人に尋ねると、
「いいよー」
と辰がにっこり笑い、
「また格ゲーで対戦しようぜ」
と智洋もにやりとしている。
昨日うちで白熱したのが余程楽しかったらしい。
俺は格闘ゲーム用のスティックも持っているからコマンド入力しやすかったんだろう。アーケードから移植してるゲームはやっぱりスティック使わねえと!
ゲームコーナーに行ってみると、同じゲームの最新機種が入っている。一番奥の対戦台に二人が腰掛けて俺はしばらく観戦することにした。
俺なら立っていても声掛けられねえけど、二人のうちのどっちかだと、またぞろ暇なギャルたちが寄ってきかねない。流石に画面の方見とけば、顔はそんなに見えねえし~。
それぞれが使い慣れたキャラクターを選んで戦うのを眺めること二十分ほど。智洋の使う主人公キャラに辰の使うライバルキャラが負けて派手に吹っ飛ばされた。
「──ちょっと休憩~。カズ交代」
若干肩を落とした辰が、自販機の方へ行くのを見て、俺が丸椅子に腰掛ける。
付近には昨日のグループみたいなキャッキャしてる女の子は見当たらなかったし、まあ大丈夫だろう。
指の運動をしてからコインを投入。スティックを人差し指と中指の間に挟んで下から上に丸い部分を軽く握る。
足技が得意な男装の麗人キャラを選択して戦闘開始!
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