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第78話 辰と第一種接近遭遇!?
「あのさあ、本気で好きになるときって、どうやって自覚すんのかなって。どうしてその人の事好きって判るんだろう?」
真剣そのものの俺を見て、少し口を開けたまま辰はゆっくりと瞬きをした。
「ええと、それはつまり恋愛感情でってことだよな……?」
「うん。だって俺らが浩司先輩好きなのと、伴美さんが好きなのって立ち位置からして違うし。辰は、彼女のことそんなに好きなわけじゃないって言ってたけど、今までに凄く好きだった人とか、今とか……いる?」
セイジの毛並みを撫でつけながら、じいっと見つめる。困ったように視線が彷徨い、ふいと智洋に助けを求める辰。
「カズがんなこと言ってますがー。ヒロはどう~? ごめん俺まだ自分から好きになったことねえんだわ」
好きにはならなくても勝手に寄って来てたんですね! ……いかんいかん、嫉妬は見苦しいぞ俺。
あー、と唸りながら、智洋はコミックスを閉じてぽりぽりと頭を掻いた。
おお? 智洋は本命もいたのかいるのかするんですね?
「まあ、あれだな……男なんだから、そいつを守りたいとか抱きたいとか感じたら『好き』ってことなんじゃねえの?」
「はは、まあぶっちゃけ好きじゃなくても嫌いじゃなければセックス可能だけどね? まあ、好きな相手とじゃないとイけない人もいるけどさ」
辰が笑ってて、智洋も「それもそうか」なんて相槌してます、が。
うう……それって二人とも好きじゃない人とえっちしたことあるってことじゃないですかー! どうなってんだ、美形の性生活は!
これってまさか一般的な男子高校生の基準じゃないよね? 誰に訊いたらいいのさ。
好きじゃない相手、で、資料室での一件を思い出してしまった……。あいつらみたいに、誰とでもいいからやりたいって奴らも多いんだろうな……。
俺はそれでも、好きな人とだけしたいと思う。まだ、キスすらしたことなくて、明らかに辰や智洋とはその方面での会話が成立しない。だけど……。
ん? あれれ? ちょっと待て。もう随分前だけど、智洋、練習だとかそんな感じで俺にキスしたよな?
さっきの口ぶりじゃあ、それよりもっと凄いこと経験してるんじゃねえの? だったらあれは何だったんだよ。
やっぱり、俺に教えてくれる意味合いの方が強かったんかなあ。
そうとしか、解釈できねえ……。
悶々としながら、がむしゃらにセイジを撫で付けた。
助けてセイジ!
わけがわからないよ……!
「けどさ、そんな質問するってことは、カズもまだ恋愛経験ないんだ? それとも、今誰か気になる子がいるとか?」
智洋がキッチンにジュースのお代わりを取りに行き、一心不乱に毛並みを撫で続けている俺の顔を覗き込むように辰が頭を屈める。
ううん、と小さく首を振って振り向くと、息が掛かりそうなほど近くに唇があって驚いた。
「あ、ごめっ」
反射的に引いた首を追い掛けて、チュッと唇の端を吸われてカチンと硬直する。
「ぅえ……?」
ななななな、なんですか今のはあれもキスですか? それより何よりんなことされる理由が解んないんですが!
頬が熱くなるのを自覚しながら、目いっぱい目を見開いて美麗な顔を見つめていると、唇の端を上げてにやりと微笑まれた。
「かーわいー。何か悩んでるなら、今度二人っきりで聞くよ?」
うう……からかわれてる……絶対面白がられてる……。
どうせ俺は小動物扱いなんだ、くすん。
辰に人差し指でほっぺを突付かれている間に智洋が菓子とジュースを持って戻り、またじゃれてんのかとあきれられてしまったことは言うまでもない。
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