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第81話 「──誘ってんの?」
「わあ……っ!」
思わず歓声を上げて見回す俺を見て、周は嬉しそうにしている。
だってさ、だって屋上が丸ごと温室になってるなんて誰が予想できる?
外周には勿論手摺と防護フェンスもあるんだけど、それもこれもひっくるめて強固なガラスでぐるりと囲まれて、椰子の木やハイビスカスやバナナの木や、なんだか判らないけど南国っぽい花たちでいっぱいの屋上庭園。
甘い香りに包まれたそこはまさにパラダイス!
「すげえ! すげえよ何これ!」
植物の間には石で舗装された小道がうねっていて、そこを進みながらぐるぐると体ごと向きを変えて見回していると、回り過ぎたのか足がもつれてしまった。
「おっと」
少し離れていたのに、パッと踏み込んできた周が抱きとめてくれて、転ばずに済んだ。
うええ……はしゃぎすぎた。恥ずかしいやつだな俺……。
「ありがと」
照れ笑いしながら礼を言ったものの、背中に回された腕がまだ緩む様子はない。空いているほうの手が、そっと頬を撫でてから包み込むようにそのまま添えられる。
間近で見ると、やっぱり痛そうだった。青紫色のその場所、触らない方がいいよなと思いながらも、ちょっとだけ指先で触れて確認してしまう。ぴくりと反応するトコみると、やっぱり触られるのは駄目なんだろうな。なんとなくそのまま耳の後ろの方へと手を伸ばすと、周が目を細めて耐えるような表情になった。
え、こっちも痛いトコあるのかなあ?
「──誘ってんの……?」
「え、」
何をと問い掛けた唇を、上から塞がれてしまう。
ぱくりと食いつくように蓋をされて、そこから柔らかなものが差し込まれてうろたえる。
さ、誘ってってそういう意味かー……っ!
てか、全然違うしっ! もう遅いけど!
「んふっ、」
狭いところで逃げ回っていても無駄な足掻きでしかなくて、舌を絡めては吸われる内に段々ともうどうでもいい気分になってくる。
智洋との時もそうだったけど、男なのにとかそういう気持ち悪さはなくて、ただ恥ずかしいっていうのは消せないけど……頭の中が、ふわんとして気持ちいいのも隠せない。
きっとそういうのも出ちゃってるんだろう、半分だけ開けた目で周の目元が綻ぶのが判った。
ごめんな、周。
こういうのなら、別に嫌じゃないよ。でも、だからって俺がお前に同じ感情抱けるかって言われると、今の段階じゃあ返事のしようがないんだ。
ちゅ、ちゅっと繰り返し唇を吸われてから離れていく唇にちょっと寂しく感じてしまう。
あったかくて柔らかかったな。
「──っは……ヤバい。そんな目で見んなって」
嬉しいけど、と周は怒ったように視線を外した。
あう……そんな物欲しそうにしてるんだ。
んっと足に力を入れて、周の腕に委ねていた体を自立させると、ぶんぶん頭を振って気合を入れ直す。
しっかりしろ俺!
いくら携が他の人と仲良くしてたのがショックだったからって、その代わりにするみたいに周に甘えちゃ駄目だ!
そんなの周に失礼すぎる。
……もう失礼なことしちゃってるけど。
「ごめん、周」
向き直って口にすると、心底わけがわからない様子で狼狽されてしまった。
「はあ? 意味わかんねえんだけどっ。怒るとこだろここ」
「しねえよなんで? 今のは気持ち良かった。気ぃ遣わせてごめんな? なんか俺が落ち込んでたから慰めてくれたんだろ……あ、そっか。ありがとうの方がいいか。ありがとな、周」
笑顔と一緒に言い直すと、「ちげーよ」と嘆息される。
「今のは心が弱ってるとこに付け込もうとしてんの! なんでかしんねえけど、寂しいんだろ? 今……」
ちらりと俺を見てから、また視線を外した周が「お」と言って俺を促す。
「見てみ? これが見せたかったんだ」
その視線の先へと顔を向けると、絶景が広がっていた。
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