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第94話 何でこんなことになっちゃってんの

 そこまでくるともう諦めたのか、自主的に頭と腕を抜いて上半身裸になってしまう辰。 「わかったよ~。着替えるけどさ、洗濯は別にいいから」  くしゃくしゃとTシャツを丸める辰の体に、吸い付くように見入ってしまっていることに気付かれる。 「なんだ? 見惚れるくらいいい男?」  太腿の上に跨ったまま見つめられているっていうのに、辰はわざとらしく髪を掻き上げてにやりと笑った。 「うん。かっこいいなって、改めて……それに筋肉付いてて、凄い……」  羨ましいって言葉だけ飲み込んで。ついでに唾も飲み込んで、そっと腹筋に手を伸ばした。  割れてる……! 優男だと思ってたのに!  ハンカチ噛み締めてキィーッてやりたいくらい憎らしい体つきだよオイ。どうなってんの、やっぱ美形は鍛錬が欠かせねえってことですかそうですか。 「んなうっとりした顔してたら襲うよ?」  腹筋のみで起き上がった辰の端正な顔が……近いって! 近すぎー!  うっとりなんて、し、してたけどっ! そういう意味じゃねえったら。  だけど、からかうような喋り方も、笑みを湛えた口元も、俺に恐怖を与えない。  何も返せない俺を見て、そのまま辰の唇が啄ばむように俺の唇を吸った。 「たつ……?」  薄いけど柔らかな感触に、きっと気持ち良さそうな顔をしてしまってたんだろう。辰はゆったりとした笑みのまま、もう一度顔を寄せてきた。  ちゅ、と口の端を吸われて、伸びた舌先が唇を辿って行ったり来たりする。吐息が漏れるとその場所から中に侵入されて、上顎を突付くように辿られて背筋が震えた。  智洋との時も、そうだったような気がする。ここって、凄く変な感じがする……!  伸びてくる舌に答える俺のそれに絡められ、互いに吸いながら唇同士でマッサージするみたいに角度を変えて触れ合う。優しくて、激しいキス。 「んふ……っ」  もうどっちの唾液かも判らないままに喉を嚥下する液体。でも嫌悪感はない。  不思議だな……そりゃあ今までだって真剣に考えたことなんてなかったけど、どうして男同士でも平気なんだろ……。って言っても、資料室のやつらみたいなのだったら、絶対舌を噛み切ってやりたくなるくらい気持ち悪いに違いない。  交わりが緩やかになり、また唇を舐めてから辰の顔が離れていった。  う。いつの間にか腰に手が回って支えられてるし。  まだ微笑を湛えたままの辰の顔、凄くかっこ良くてなんだか腰の奥が疼く感じがした。んん?  つか……えーと、ケツの下というか、それより股間同士が当たってて。 「ふえ……?」  あ、あれ? なんか、お互い硬くなってませんかね……。  辰も気付いてるんだろう。それでも困っている様子じゃない。なんか悔しい。だったら俺だって困った顔なんか見せないんだかんなっ。 「一緒に抜く?」  唐突に言われて、目が点になりそうだった。答えに窮している俺の下で、太腿を上下に揺らされる。 「っあ、ぅんっ」  なんだか甘ったるい声が漏れてしまって、流石に赤面して両手で口元を覆った。  やだー! 発情期か俺は! 「気持ち良くイかせてやるから、今だけ全部忘れろよ」  そんな顔で言わないでくれってば。彼女さん、よくこんな辰と別れようだなんて思ったよね……。週に一度でも会えるんだから、大切にしてもらってそれで十分じゃん。  俺だったら……きっと離さないのに。  ──はっ! いやいや今のは彼女の気持ちになって考えただけですよ? って俺一体誰に言い訳してんの!  挙動不審な俺をどう思ったのかは知らないけど、腰を持ったまま体をずらして一旦床に下りた辰がドアの鍵を掛けた。  あ、本当に抜く気なんだ……まあ、携ともしてるし、別にいいんだけどさ。  そのまま逡巡したようで、でもベッドの下からティッシュの箱を引っ張り出してもう一度ベッドに上がって来た。 「電気消したら変だし、まあこのままでいいよな」  さっき迷ってたのは電気だったんだ……。 まあ、確かに消灯前に消したらおかしいし、外から見たらモロバレなんだけどな。  そのままスウェットと一緒に下着も脱いじゃった辰に羞恥心はないんですかと小一時間問い詰めたい。 「なに? 脱がされたいの?」  色気たっぷりに首を傾げられても困りますー! 「今更恥ずかしがったってしょうがねえだろ~。見たことあるだろ、俺の」  ええそうですね、大浴場で何度か一緒になってますしねっ!  でも風呂場と部屋は違うんだよー!

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