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第95話 【幕間】しめやかなはかりごと
静謐がその部屋を満たしている。知らなければここが高等学校の校舎の一部とはとても思えないだろう。陽は中天にあるにも関わらず、沁み込む様な薄ぼんやりした闇の中で、窓辺から差し込む幾筋かの光を受けた銀糸が朝露を纏った蜘蛛の糸のように輝いている。
「ローレンスの言ったとおり、凄く優しいし、綺麗だし、いい人だね……」
黒檀の書棚を背に、中庭に眼を遣っている人物に向けて、年季の程が覗える布張りのカウチに脱力した風に身を横たえていた青年が声を発した。少年の域を脱したばかりのような少し高い声が、闇の中に灯る明かりのように空気を震わせた。
「それは良かった」
高貴な紫を更に深くしたらこうなるであろうと推測するような髪を揺らし、窓辺の青年が振り返る。
「しっかり仲良くなってくれると僕も嬉しいよ。彼には将来このイーストエンドを取り纏める存在になってもらわねばならないからね」
「そうなの。うん、じゃあいっぱい仲良くするね。それくらいしか、僕には手伝えないから」
「きみにしか出来ないことだよ」
見た者全てを魅了する笑顔を向けられ、さしものシャールも白い頬を染めた。
身を起こすと、少し屈んでまだ湯気を立てているティーカップへと手を伸ばす。芳しい香りを吸い込んでから、そっと唇と喉を湿らせた。
──彼らが持っている【あるもの】を使用し、その効果のほどをこの目で確認する時まで。
ローレンスは、口には出さぬまま、闇の中に思考を融かせる。
──それがどのような結果をもたらすのか。彼がそれに耐えられるのか……もしくは。
「壊れる、か」
うっそりとした呟きに、シャールが面を上げて不思議そうにアメジストの瞳を瞬かせた。
そう遠い日の事ではない。それでも、皆の気が緩み、監視の目がなくなるまでは彼らも用心することだろう。
それ故に、それとなく、意志を悟られぬようにことを為し易いようにと環境を整えていく。
──早く見せておくれ、その威力を。
そうして後に、彼は捕らわれる。この腕の中、鳥かごの中に。
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