100 / 145

第100話 携が行方不明

 そうだ。今までは、携が上手く誘導してくれて……俺からは言い出せなかったことでも、ちゃんと話せるような状況を作ってくれてて。だからかな、喧嘩してもすぐにちゃんと仲直りできたし、気まずくもならなかった。基本的に俺もすぐに白黒付けたくなる性分だし、顔にも出ちゃうしで隠し事が出来ないせいもあるけど。  だけど今回に限っては、いつも第三者が間に入っちゃって、俺はともかく携はそっちに遠慮して身動きが取れなかったんじゃないだろうか。  だってあれだけ心酔しているSSCの関係者だもんな。無碍にするわけにもいかないし。  そりゃあ携のあの打ち解けた表情を見たら、仲が良いのは確かなんだろうと思う。だけど、そういうのも含めて俺に内緒にしておく筈がないんだよな、今までのパターンからすると。確かに忙しいのもあるかもしれないけど……。  結局、俺たちに今足りていないのは、きちんと話し合う時間ってことなのかな。 「よし!」  浩司先輩はパンと音を立てて俺の肩を叩くと、腰を上げた。 「これから氷見の部屋に行ってみようぜ。善は急げっていうだろ」 「え? は、はいっ」  冷めてしまったコーヒーの残りを飲み干すと、そのままでいいからと言われてワゴンに置いた。せめて洗うくらいはしないとと思ったのに、いいからいいからと背中を押されて部屋を出る。  いつもなら部屋にいる筈の時間だけど……いたとしても、またあのシャールさんが来ているかも。  そう思うと一人だったら絶対に行けない。だけど今は隣を歩く浩司先輩に励まされるように、足は下の階の端にある携の個室に向かっていた。  ドアの前で足を止めて、もう一度振り仰いで先輩を見る。目を細めて頷くその顔に励まされて、ドアをノックした。十秒ほど待ってもう一度ノックしてみても応えはない。夜だから中に明かりが付いていたら隙間から何となく漏れる光もないし、鍵が掛かっていた。  いないのかな……風呂とか?  先輩のお陰で出てきたやる気が、ぷしゅうと音を立てて抜けてしまったような感触。 「留守じゃしょうがねえか」  ぽんぽんと宥めるように肩を叩かれて、ウォルター先輩も居る筈だからと談話室に向かった。  奥の談話室に行く前に、ビリヤード台に先輩と辰がいた。 「もういいの?」  意味有りげに微笑む姿は、湯上りで上気していて凄く色っぽい。辰も湯上りみたいで、色白と一口に言っても種類の違う白さだなあなんて感慨に耽りながら頭を下げた。 「はい、ありがとうございました。それに、さっきは生意気なこと言ってすみませんでした」  再度深々とお辞儀をすると、辰は不思議そうに首を傾げ、ウォルター先輩は「ああ」とキューの持ち手の部分で自分の肩を叩いた。 「そのことだけどさ、さっきヒデさんに会ったから確認してみたけど、今日は午前中しか執行部使ってないって言ってたよ? 俺の分は残してあるって嫌味言われたけどねえ」 「え?」  驚いてぽかんとしていると、苦笑しながら続けられる。 「ついでに自販機のトコでみっちゃんにも会ったけどさ、外出届は出ていないらしい。つまり寮内の何処かか、執行部以外の校舎にいるってことかな」  みっちゃんと呼ばれているのは寮長だ。外出届が出ていないなら、確実に敷地内にはいるんだろう。こう見えてもセキュリティシステムは連邦式になっていて、門から出入りする人物は厳重にチェックされている。建物自体はこの国の様式でよくある校舎のような造りになっているけれど、センサーやらカメラやら、色々装置が隠れているとかいないとか。  朝食は一緒に摂ったけど、その時には特別何かがあるようには言っていなかった。日曜日に出掛けたりいつもと違う行動をとる時には三人で報告するような感じになっているから、てっきり今日も携は忙しく仕事をしているんだと思ってたのに。  昼は俺が早目に済ませたから、会わなくても疑問には感じなかった。時間内には食べている筈だと思い込んでて。夕食の時に現れないのは変だと思ったけど、それも平日なら遅いことがあるから、なんとなくそのまま見過ごしてしまっていたんだ。流石に日曜日に遅れたことなんてなかったのに……。  どうして? それなら今携は何処に……?  不安になって壁時計を見上げると、もうじき二十一時になろうとするところだった。  誰か、他のクラスメイトとかの部屋に行っているって可能性もなくはない。これが他のヤツならそうだろうって簡単に納得できる。でも携なんだ。いくら中学の時より人と打ち解けているっていっても、それは大勢がいる場での話で、個人的に仲が良く見えるのはあのシャールさんだけだ。それなら部屋にいる筈じゃないか……?  そこまで考えて、ようやくその逆もあるかもと思い至った。

ともだちにシェアしよう!