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第105話 これってラブレターみたいだな
うんうん唸りながら、結局書き上がったのは週末だった。
その間も昼休みは大勢の一年生が視聴覚室に集まり、昼休み中もシャールさんとの会話を楽しんだらしい。
結局俺は昼休みは智洋とキャッチボールしたりバスケットゴールでシュートして遊んだり、他にもメンバーがいればスリーオンしたりして遊んで過ごした。
周と辰も最初は一緒にいたがったけど、グローバルタイムが楽しそうなのは見ていて明らかだったし、別に一人ぼっちじゃないってことも説明したから納得してくれたみたいだ。苦手なものが苦手なままになってしまうのって良くないんだろうけど、どうしても携とシャールさんが一緒に視界に入るのが苦痛でならなかったんだ。
シャールさんの評判は上々で、あの変てこな発言については色んな憶測が飛び交っていたけれど、それ以外にもたまに天然ボケな返答をしていたりするので、あれはあの人なりの冗談だったんだろうということで落ち着き始めている。何しろ綺麗過ぎてアイドルみたいな存在になってしまっていて、周なんかはかなり興味を示しているから、このまま俺に向ける感情もあっちにやってくれたらいいのにとか都合の良いことまで考えてしまった。
携のことで頭がいっぱいで、なかなか友達を気遣うことも出来ていないような現状では、普通にクラスメイトとして仲良くやっていけたら、それだけで肩の荷が軽くなるなんて思っては自己嫌悪したりもしてる。
これって、携も俺に対して思ってることだったりしてな……。
封をした淡いグリーンの封筒を両手に持って眺め回しては、溜め息。
何度も書き直して、誤字を直したり文章を弄ったり。ようやく封をしたのはいいけど、もう一回開いて確認しようかとか、このまま破いて捨ててしまいたい衝動も湧き起こる。
何しろ手紙って、ずっと形として残るものだから、口にして伝えるよりずっと勇気がいる。重いって思われるかもしれないし、こんなのわざわざ手紙に書いてまで伝えることかよって自問自答したり。
直接渡すつもりだけど、一応宛名も書いてもう一度じっと見ていたら、これってラブレターみたいだと気付いて一人で赤面してはグシャッと握りつぶしそうになってしまった。
危なかった……一週間の努力が水泡に帰すところだったよ……。
緊張からくる汗であちこち皺になってしまったものの、もう一度机に置いて手アイロンしてから、そっと上着のポケットに入れた。
登校する前に部屋に寄って直接手渡す。もう決めたから。
いつもは智洋と一緒に登校してクラスの前で別れていたんだけど、今日だけは携の部屋の前で待っていた。朝食には来ていたから休む筈はないし、確実に手渡せてなるべく人に見られないという点で好都合だったから。
登校前もギリギリまで勉強をしているみたいで、それでも少しは余裕を見てからようやく携がドアを開けて出てくる。
「和明?」
驚いた顔で施錠する手元を見ながら、そっとポケットから封筒を取り出した。
「あのさ、ゆっくり話できないみたいだから……せめてこれ読んで欲しい」
いくら端だといっても他の部屋からも登校する生徒たちが続々と出てきているから、なるべく他のやつらには見えないようにそっと差し出した。
予想の範囲外だったみたいで、携は一瞬ぽかんとしたけど、おずおずと差し出された手の平に押し付けるようにそれを載せて、もう一度しっかりと携の顔を見た。
宛名を見て、ひっくり返して裏を見て、それが正真正銘俺からの手紙だと確認すると携も顔を上げて口元を引き締めて頷いてくれた。
中学時代、女子から携宛のラブレターを押し付けられることもあった。途中からは断固として突っぱねたけど、何回か勝手にポケットや鞄に押し込まれていて、仕方なく渡したこともあった。そういう類いのモノじゃないことは理解してもらえたと思う。
黙って神妙な顔で鞄の外ポケットに差し込むのを確認してから、二人並んで教室に向かった。
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