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第112話 しれっと旨いとこ取りっすか
次の種目は三年生全員参加の障害物&借り物競争で、当然応援団の三年生もごっそりと抜けていく。しかも障害物のときに、二年生の有志で邪魔もするらしく、二年生までが抜けていく。
走る競技ならレッツゴー拍子でいいんだけどこういうときはどうすれば良いのか判らなくて、結局一年生はめいめい適当に声を張り上げて先輩たちを応援することになった。
指示書の入ったパンまでようやく辿り着けても、その中はハズレの割合が多いらしい。浩司先輩もハズレを引いたらしく文句を言いながらスタート地点に戻って行った。
これ、取ったパンは完食しなきゃいけないってことは、何度もやり直したらそれだけで腹いっぱいになりそうなんだけど。いくら小さめのクロワッサンとはいえ、先輩たちの腹具合を心配してしまう。
上手い具合に指示が入っていた場合も、動揺して立ち止まり考え込む人が多かった。
一体何が書いてあるんだろうなあって考えていると、観覧者への説明も兼ねてかアナウンスが入った。
『指示の内容の具体例を紹介します。先程引かれた方は【星とダイヤモンド】のようですね。役員が納得できるようにこちらへお持ち帰り下さい。主観で結構ですが、第三者から見てそれは的外れだろうと見做されると失格になります。指示されたものは、必ずこの学園内に存在していますので、閃きの勝負です』
おいおい、なんちゅう「借り物」だよ……。
俺たちは絶句して顔を見合わせた。
星って抽象的なアレかな? ダイヤモンドだって、ここにはないだろうし。
他の指示にしたって似たり寄ったりの奇抜な内容なんだろうな。これ本当に勝負付くのかなあ。
見守る中には生徒会長もいて、眼鏡のブリッジを押し上げるポーズのまま固まっている。一体どんな指示が書いてあるのやら。
そうこうしている内に、てれてれと歩いて一応参加していたウォルター先輩が、パンを食いながら紙片を見て、咀嚼しながらそのまま役員席の方へと歩いて行く。
テント前で何か声掛けていると思ったら、一番後ろにひっそりと腰掛けていたシャールさんが立ち上がってウォルター先輩の手を取った。
気付いたほかの生徒たちも注目している中、言葉を交わした二人が軽く抱き合うような感じでステップを踏み始める。
柔道の足捌き? じゃなくて……あ! ワルツのステップか!
ほえ~と見入っていると、踊るのを止めた先輩が紙片を渡し、暫しの協議の末アナウンスが入った。
『ほぼ満場一致でOKが出ました! よって、この競技は白組勝利となります。尚、指示の内容は【天使とダンス】でした。それでは他の三年生も撤収してください』
両陣地からどよめきが起こり、浩司先輩たちもふてくされたように肩を竦めながらも、面倒が終わって清々したという感じで帰って来た。
ウォルター先輩、美味しいトコ持って行ったなあ。
次のプログラムが二年生の大縄跳びで、赤組が勝利してちょっとだけ安心した。
その次は一年生のスウェーデンリレーだけどこれはクラス対抗でC組勝利。俺と携も出場して頑張ったけど、アンカーの智洋の速さが半端じゃなかった。
心の中でだけおめでとう!
その次は二年と三年合同のリレーでこっちは赤白対決の四チーム。まあ、クラスの数が全然違うから仕方ねえよな。
トップバッターは同じ赤組応援団の森本先輩とウォルター先輩の対決もあって殆ど同時に次の人にパス。後はもう走り手によっての抜きつ抜かれつの攻防戦が続いて、いよいよ襷を掛けたアンカーへとバトンが渡る。三年の赤組は今トップ走っているんだけど、白のアンカーは大野会長だ。それがまた速いのなんのって……。ゴール前までもたず抜かれて、トップは三年白、それから三年赤、二年赤、二年白と微妙な順序。
全体的に白組優勢かもしれないな。はあ。
つか、会長は万能すぎですーっ!
『それでは、これより昼休憩に入ります。競技は午後一時より開始されます。エール交換の各応援団は、十分前に校庭に集合してください』
アナウンスの声に促されて、生徒は散り散りになっていく。イベント気分を出すためにか、今日は食堂じゃなくて弁当が教室に配られているらしい。
「じゃあ、早目に食って少し腹を休めてから集合な」
浩司先輩が応援団員を見回して声を掛けて、「おす!」と口々に応じて周と一緒に教室に戻ると、もう箸と弁当が机の上に置いてあり、辰が机を移動させて二つくっつけているところだった。
「一緒に食おうぜ」
にこにこしながら弁当三個を向かい合わせの机に置いて椅子も持って来てて、それ殆ど強制ですね? いや別に嫌だってんじゃねえけどさ。
苦笑している周と一緒に教卓に置いてある薬缶から紙コップに麦茶を注いで席に着く。机は辰と周のをくっつけているから、俺は横に置いてくれた椅子に座った。
一緒に頂きますをして、浩司先輩の活躍について熱く語る辰に全力で同意しながらも、食べる方優先で口を動かす。付き合いで相槌を打っている周も、手と口はさっさと動かしていて、二人とも食べ終わった頃にはまだ辰は半分くらいしか食べていなかったけどしょうがねえ。まだ二十分くらいあるからお茶を飲んで辰が終わるまでぽつぽつと喋りながら待って、三人一緒に廊下の手洗い場に行って歯磨きをした。
ついでにトイレに行って食い零しとかないか顔のチェックして、まだのんびり食っている奴らもいる中、学ランに着替える。って言っても上はTシャツの上に着るだけなんだけどふと横を見ると辰がじっとこっち見てて、逆に不自然なくらいに周は視線逸らしてて、今更ながら恥ずかしくなる。
お、男同士なんだから、下着みられるくらい……けどなんか周に限ってはちょっと気にしたりはするんだけども。
辰とは一度抜きっこしたこともあるくせに、そういう色めいた感じにならないのが不思議。何でだろう。
「辰? なんか変?」
「トランクス派なんだと思って~」
「あー、なるほど」
前に風呂場で会った時、確か辰はボクサーブリーフだったような。ローライズのさ。
考えた事もあるんだけど、どっちかというと股間がフリーな方が好みなんだよな、俺。辰はジーンズとかも細身のぴったりのやつ着てるし、だから下着もぴったりしてるタイプがいいんだろうな。
そんなロクでもないこと考えながら、学ランに袖を通して襷の端を口に咥えてから肩に回した。
同じ教室の中では白組のヤツらも着替えてて、本番気分が盛り上がってくる。
ブルルッと武者震いしながらちらりと周を見ると、いつになく真剣な顔で目を合わせてきて。
「いよいよだな」
拳を握ってぐっと突き出してくるから、こっちからも拳を出してこつんと当てた。
「二人ともカッコイイ!」
カシャッと音がして顔を向ければ、満面の笑顔で辰がカメラを構えている。インスタントじゃないヤツ持ち込んでたんだ。思わず笑みが零れると、またカシャッ。
「今度はこっちが応援する番だな」
スキップしそうに軽やかな足取りの辰と一緒に、気合十分の俺たちは白手を握り革靴に履き替えてからグラウンドへ向かった。
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