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第125話 変わらぬ気持ち

「ありがとう……俺、へましてばっかだな」  決心した筈なのに、携の方へと首を動かすと涙が溢れそうになる。 「和明、俺の方こそ、防ぐことが出来なくて、助けに行くのが遅くなってごめん。ごめんな、辛い思いさせて」  ふと気付いたらしく、携はベッド脇に繋いでいる拘束を外しに掛かった。解けていくバンテージと包帯は、俺が自分で爪を立てて下腹を引き裂こうとするから致し方なくの処置だったらしい。 「でも、もう俺がそんなことはさせないから」  そうきっぱりと俺を見つめてくる携は頼もしくて。  ああ、やっぱりこれが本当の携で……  俺が大好きな人で。  そして、もう俺一人の傍にいちゃ駄目な人なんだと思い知った。 「ああ……そっか」  洗濯物を入れるためらしき籠に放り込むのを視界に入れ、それから自由になった自分の両手を握ったり開いたりして感覚を確かめる。  嬉しかったよ、ほんのひと時でも。  微かな意識の下、ずっと傍にいてくれたのを憶えてるよ。  いくら体育会が終わったとはいえ、まだまだ学園生活は序の口で。しかも携はSSCの幹部候補として特別な講義を受けている身なんだろ?  俺なんかのために、貴重な時間を使わせちゃいけない。  携は、自分を高めるためにその時間を使って、そして空いた時間だけ、ほんの少しだけ俺に構ってくれたら、それだけでいいんだ。  もう少し慣れるまで待っててと言われた。理由が判って安心して、それならもうそれだけでずっと信じていられると思った。  ずっと待ってるよ、携が俺のこと大好きでいてくれている間、ずっと。  だけど。  こうなってしまった俺に、携を待つ資格なんかないじゃないか。  優しいから、純粋な愛情じゃなくて同情で、前言は撤回しないだろうって。それなら、俺から離れないと……携からは、切り出さないと思う。 「携、もう俺のことは放っておいて。後は、仁先生に任せてくれたらいいから」  心地良い沈黙を破り口にすると、腰掛けて柔らかく微笑んでいた携が眉根を寄せた。 「今日、振り替え休日なんだよね? でも一日中ついててくれなくても大丈夫だから……今日は講義とかねえの? なくても予習とか色々やんなきゃならないことあるんだろ? 薬があるなら、後はもういいから、だからさ」 「和明! 俺は……俺はもう誰もお前に触れさせたくないんだ。例え仁先生でも」  遮るように出てきた言葉は、俺が思ってもみなかったものだった。  唇が、震える。  でも、でも……携。 「何言ってんだよ……俺は、三人もに犯されて、中にいっぱい出されて! 汚ねえんだよ? こんな体、携に大事にしてもらう資格なんてっ」  拳をマットレスに叩きつけると、衝撃で点滴のパックがゆらゆらと揺れた。 「バカ言ってんな! 俺が言った事憶えてないのか? 俺は和明の全部が好きだって言っただろう! どんな和明だって、和明は和明だ。何も変わらない」  珍しく声を荒げて立ち上がったその瞳の奥では、何かが揺らめいている。 「好きだ、今だってその気持ちに変わりはない」 「違うよ……こんなになった俺に、罪悪感持って、同情してるだけだよ」  優しいから。優し過ぎるから、切り捨てられないだけだ。 「同情なんかじゃない! じゃあ、逆の立場だったら和明は俺のこと嫌いになるのか?」  泣きそうに歪んだ表情で、僅かに首を傾げる。そんな時でも……どんな時だって、携は綺麗だった。  考えるまでもない。  疑心暗鬼になっていた時も、俺の一番はずっと携だった。  他の誰かに優しくされて癒されても、それでも求めたのは携だけだった。  おんなじなの?  携も、同じように、もしかしたらもっとずっと、俺のこと必要としてくれてるの……?

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