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第126話 心も、からだも

「他の誰に何を言われてもいい。和明だけに必要とされたいのに」  涙を堪えるかのようにくっと歯を食いしばり、目を細めた携がそっとベッドに手を突いて屈み込んで来た。  ふうっと、頬に息がかかり、額に唇が落ちる。 「好きだって、愛してるって言ってるだろう」  至近距離で紡がれる言葉が、じんわりと体に浸透していく。  音も立てずに降ってくる優しいキスに、肌が熱を帯びていく。  ああ、携── 本当に、その言葉だけに縋って頼って信じて、ずっと傍にいたいよ。 「大好きだよ、俺も。だからこそ、俺だけに縛られて欲しくないんだ」  流れ落ちる涙すら、唇で掬い取られる。  握りこんでいた手を開いて、そっと伸ばしてさらさらの黒髪に触れた。 「バカ和明」  そのまま今度は唇を塞がれる。  甘噛みされてジンと痺れる箇所を丹念に舐められて、背筋をちりちりと謎の感覚が走り抜けていく。甘く切ない痛みを伴う口付けに、更に涙が溢れた。少し開いた唇の中には入らずに、ただちゅっちゅっと音を立てて吸われて物足りなさに吐息しながら頭に添えていた手の平に力を入れてしまう。  唇が遠退き、にいっと意地悪気に微笑む携。 「俺が欲しいだろ?」  自信満々なその顔に、かあっと体中が火照った。  そ、その通りだけどっ! そんなの正直に言えるかっつーの!  虚しく口をパクパクさせて、それでも携の顔から目が逸らせなくて。 「本当は、今すぐにでも抱きたいよ。ずっとずっと我慢してた。親友だって信頼してくれている和明を裏切りたくないから、何処までなら許されるのかってぎりぎりのラインを見極めようと色々試してさ。そうやって少しずつ体を慣らしていくつもりだったのに、迂闊にもあんなやつらに先越されて。心身ともに傷付いてるのに追い討ちなんか掛けたくないから我慢してんのに! どうして突き放そうとするんだよ……」  泣きそうに目を細めている携は、この上もなく色っぽくて艶めいていて。  堪らなくなって、とうとう俺は両腕で携の頭を抱え込んでしまった。 「欲しいよ、携。携が欲しい、全部、全部欲しい」  ──言っちゃった。  くすりと笑みを零して、そっと髪を梳かれる。  ああ、いつもの携の手だ……大好きな、俺だけの手。  ふうっと体から力が抜けて、ふにゃりと笑ってしまう。 「ずっと前から、俺は和明のものだよ。俺だって、和明のこと縛り付けたくないから黙って好きにさせてただけ。だけど、それで今回みたいに変なことになるんだったら、容赦なく縛ってやるからな」 「ん……いいよ、携にならなにされても」 「意味わかってんのか?」 「多分」  だって手の平が気持ち良くて、全部携に持ってかれてる。  心も、体も。  ふっと息をついた携が、ちゅっともう一度唇を奪ってから体を起こした。するりと解かれた両腕は宙を彷徨う前にしっかりと握り締められる。 「今はこれ以上出来ないけど……変な薬抜けたら覚悟しろよ」  覚悟ってなんだ?  なんか、他の人が見たら睨まれてんのかってくらいに真剣に見据えられてんですけど。 「今度こそ、抱かせてもらうから」  言葉の意味がようやく脳に達して、ぼんって音が出るくらいに顔に血が上って脳味噌沸騰しそうになるくらいエロい妄想が駆け巡った時、おはよーと暢気な声がして仁先生が入って来た。

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