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番外編 かりそめの恋人〈周一郎✕辰史〉

58話裏話 ---・---・---・---・---  嫌なところを見られてしまった。  正確に言うならば、恥ずかしい場面を見られてしまった、なのだが。  その後、何を思っているのか寄り添うようにひょこひょこと付いて来るクラスメイトに苛立ち、ついに言ってしまった。 「同情してんならヤらせろよ」  全くなんて忌々しくて苦々しい。  当然嫌気が差して離れていくかと思っていたのに、一拍後にあっさりと「いいよ」と来られて周一郎の方が狼狽してしまった。 「同情というより、興味、だけどな」  腹が立つほど綺麗な顔立ちの彼は、確か共学出身の筈だった。クラスメイトと彼女の話題で盛り上がっていたのも記憶にある。どうしてそんなことが言えるのかさっぱり理解できなかった。 「点呼が終わったら部屋に来いよ。鍵は開けとく。ルームメイト、帰省してるから」  猫のように眦の上がった色素の薄い目を細め、声を潜めた。 「ゴムは自分で用意しろよ?」  唇の端を上げて笑み、踵を返して自分の部屋の方へと去って行く。  からかわれてんのか……?  わけが判らないままに習慣となっている自習をして、点呼の後同室の優太郎が出て行くのを待ってから自分も部屋を出た。非常灯以外の明かりが消えている廊下をなるべく足音を消して進み、ノックもなしに目的のドアを押し開けた。  冗談だったなら鍵が掛かっているはず。  すんなりと開いてしまったドアにまた戸惑いながらも、今一度周囲を確認して誰にも見られていないと確信してからそっと滑り込むように中に入った。  奥で机の蛍光灯を点けて勉強していたらしい辰史は、椅子を回して腰掛けたまま体をこちらに向けている。パチンとスイッチを切られると、どういう表情をしているのか判らなくなり、仕方なく歩を進めた。  辰史も立ち上がり、「こっち」と手を取ってベッドに誘われる。 「……どういうつもりだよ」  しゃべると、それだけでも口や頬が傷む。本当を言うと、体中あちこちが痛くて、これからしようとしていることは、別段積極的にしたいわけでもなかった。 「別に、特に含みがあるわけじゃねえし、誰にも言わねえから安心して?」  腰を下ろした辰史が、下から腕を引いた。  体格差もそうあるわけでなく、肉体的にも精神的にも弱っている周一郎は、あっさりと辰史に覆い被さるように転がってしまった。  下半身のものに手を這わされ、服の上からとはいえしばらく他人に触れられていなかったその場所が即座に反応する。くっと歯噛みして耐えていると、柔らかく口付けられた。 「初めてだから、優しくしてね?」  なにがだ、誰がだ、と言い返したくなるほど、不似合いな台詞に聞こえた。それでも、気付いてしまった。  離れていく唇が、細かく震えていることに。  初めてなのは、本当だろう。女相手なら何人でも経験はあるかもしれないが、自分が体を委ねるなんて有りそうにない容姿と性格をしているのだ。普通なら、同情なんかでただのクラスメイトでしかない男に抱かれたりなんて出来ない。  興味? 俺にか? それともこの行為にか……?  解らない、解りようがなかった。今日の今日まで、一日に一言二言話すか話さないかという間柄だったのだから。 「途中で泣いたって止めてやらねえからな」 「望むところだ」  暗闇にも慣れ、天井に付いている常夜灯の豆球と外からの明かりで多少は表情が判るようになっていた。  互いに微笑を浮かべて探るように視線を絡めると、覚悟を決めて周一郎は相手の体を跨いで唇を塞いだ。  薄い唇を開き招き入れる舌先は、流石に慣れていた。舌を絡めては吸い、熱い口内を貪りあう中でそっとTシャツの裾から手の平を入れるとぴくりと腰が跳ねた。  やはり怖いのだろう。  口ではどう言おうと、体は征服されることを良しとしていない。今までは抱く側だったのだから当然だ。  それでも、ゆっくりと進めていく愛撫に肌が反応を返す。  行為の過程が優しいと定評のある周一郎のやり方は、別段相手を思いやってのことだけではない。確かに、挿入して射精するのが最終目的だから、それのみに集中する者も多い。けれど、周一郎は相手の洩らす快感の喘ぎや熱い吐息が好きだった。こちらがたっぷりと時間を掛けて好くしてやれば、体の反応が変わっていく。中の蠕動の仕方、そして窄まり具合も。  仮初めとはいえ、そこには情がある。それを引き出すことで、自分も更に好くなれることを知っているからこそ、手間も時間も惜しまない。まして、姿かたちが綺麗らしい相手ともなれば、いくら直前までその気がなかった仲とは言えど、燃え上がるまでに時間は要しなかった。  跡を残さないぎりぎりの力加減で、白い肌を舐めながら吸い、軽く歯を立てる。脇腹も含め全て触れていない場所がないほどに口付けると、背中に手を入れてうつ伏せにさせた。キスの途中で脱がせたTシャツを床に落とし、更に肩口から舌を這わせると、辰史の体が跳ねて僅かに声が漏れた。  どうやら背中が弱いらしいと当たりをつけて、そっと指先を這わせながら良い場所を探っていく。 「あ、あ……やっ、」  細かく震える腰を捻り、振り向いた切れ長の目に涙が滲んでいた。中心線にそって執拗に擦りながら吸っていると、堪らずに甘い声が漏れ始める。服が汚れるかと思い、ようやく背中から尻へと手の平を滑らせるように下着ごとスウェットをずらしていくと、ビクビクと震えが大きくなった。  自分も上を脱いで辰史の衣類と共に床に落とすと、背中から肌を合わせて耳の傍で低く囁く。 「ここがいいんだな」  触れる、というのがまさに的確な、ごくささやかに触れ合う手の平と臀部。その刺激が堪らないらしく、はあと熱い息がすぐ傍に感じられる。  もう先走りが滲んでいるのは判っていたが、そこには触れずにひたすら肌への愛撫を繰り返していると、仰け反った辰史が激しく頭を振った。 「やっ、焦らすな、よ……」  その喉元に甘噛みしてからねっとりと舌を這わせると、唇と共に体全体が戦慄いた。 「女じゃここまでしてくれないだろ?」  耳の中に落とすと、また体が震えた。解っていてやっているのだ。自分のどの音域が相手の性感を刺激するのか。数え切れない人数と交わってきた周一郎は、このことに関しても勉強熱心で、相手を悦ばせる手管に長けている。  もう一度仰向けにすると、ついにきたかという感じで僅かに辰史の頬が強張るのを見逃さなかった。  だがまだ本番には至らない。焦らして焦らして焦らしまくってから、相手に要求させるのが好きなのだ。例え行為自体が初めてでも、抗えない本能から来る欲求。羞恥心もプライドも捨ててそれに身を委ねるまで、いくらでも待てる。  太腿に手を当てると、反射的にだろう、辰史がキュッと目を閉じた。それを視界に捉えたまま、片足を自分の肩に載せるようにしながらふくらはぎに舌を這わせる。目が開き、戸惑いながら見上げてくる瞳。視線を絡めたまま、膝裏まで到達すると腰が跳ねた。口を開けたままそこだけ集中的に舐めると高い声が上がった。  自分でも驚いたらしく、手の甲を口に当てて押さえてしまっている。 「聞かせろよ」  楽しみが減るじゃないかと片手で引き剥がすと、悔しそうにしながらも従ってくれた。それに気を良くして、再び舌の動きを再開する。  太腿まで到達すると、中心はもう見事に反り返り、透明な雫を垂らし続けていた。  出来るなら自分の手で触って扱きたい、イきたくてイけない今の状態がどれほど辛いか解っているからこそ……周一郎は丹念に太腿にキスをして、根元近くまで舌を這わせてはまた離れ、もどかしげに腰が揺れるのを眺めては悦に入る。  袋から後孔に至る筋を舐めると、窄まりが収縮する様まで見て取れて、堕ちるのもあと少しだとほくそえんだ。  雫を指に絡めてゆっくりと筋に沿って窄まりへと指を行ったり来たりさせる。緊張して強張っているのを知っているから、わざと肝心な場所へは触れずに時期を待つ。  反対の足にも舌を這わせては甘く噛んで、弛緩した瞬間にそっと指先を差し込んだ。 「んんっ」  視線を絡めたまま大きく見開かれる目。きゅうっときつく閉じようとするその場所から先へは進まず、しかし抜くこともしないでまたタイミングを計る。片足を肩に載せたまま体を近付け、唇を求めた。  緩んだ隙に第二関節まで入れてしまい、舌を吸いながら指でも蹂躙する。初めて異物を受け入れたその場所は、それでも口を閉めて獲物を逃がすまいとする肉食獣の口のようでもあった。  感覚ですぐに好いポイントを探り当て、まずはそっと触れるだけの刺激を与えてみる。人によっては何も感じないか、いきすぎて苦痛を感じる場所でもあるだけに、扱いは慎重だった。  最初何をされているのか解らない様子の辰史だったが、同じ動きを繰り返すうちにまた雫が溢れ始め、それを確認してからもう少しだけ力を加えると、塞いだ口から喘ぎが漏れた。 「っ、……ふぁっ、何、今の……あぁ!」  弓なりに背が反り、声を聞くために唇を解放すると周一郎は指を増やして動きを変えた。 「あっ、ん、や……はぁ、んんんっ」  前立腺と中を刺激されながらまた太腿を噛まれて、どうしようもなく腰とその雄が揺れる。そこから更に指を増やして動きを激しくすると、中心はもう爆発寸前の様相を呈していた。  だが、まだそれでもイけない。  後ろへの刺激に慣れてもいないし、僅かに物足らなくて達するところまで上り詰められない。  辰史の目から、涙が頬を伝った。  もう一押し。  周一郎が、付け根に程近い場所を、今度は跡が残るように強く吸いながら噛んだ。 「やあああっ」  びくんと腰が跳ね、吊られて雄もゆらゆらと揺れる。 「っ周、も、ヤだ……イかせてくれ、よっ」  懇願する声と、眼差し。 「俺が欲しい?」 「ん……周が、欲しい……俺も、もっと気持ち良くして?」  言質をとり、にやりと笑みを浮かべて、ようやく股間に手を伸ばし、暴発しそうなものを強めに握った。  待ち詫びていた刺激を更に得ようと、おそらく無意識に動き始める腰を抑えるように、両方の足を担いで間に体を入れる。その動きが何をしようとするものであるのか知ってはいるだろうが、今や半分理性を手放している辰史に抗う様子はない。  そのままポケットを探り目的のものを咥えると、下半身に着けたままだった衣類を脱ぎ捨てて、袋を破いてから中身を装着した。  もう大分解れているとはいえ、もう一度辰史自身の分泌物を絡めてから窄まりに先端を当てると、門前払いを食わそうときつく門が閉じる。  竿を握って扱いていたのと反対の手で鈴口をゆるゆるとマッサージでもするかのように指の腹を使って撫でていると、力が抜けた。そこを狙って一息に突き込むと、「ひいっ」と引き攣るように掠れた悲鳴が上がった。  半信半疑でここまで来た為、流石にローションを持ってこなかったのだ。先走りだけでは潤滑剤には足らなかったのだろう。ゼリーが多少コーティングされているとはいえ、生で入れるよりゴムの方が滑りも悪い。ましてや辰史は初めてなのだ。裂けるまではいかずとも痛みがあって当然だった。  ぽろぽろと零れ続ける涙を指先で掬い、萎えかけてしまった雄の象徴を両手で愛撫する。  下の口が馴染むのを待ちながら、昂ぶりが戻るまで優しく丁寧に擦っていると、流石に先刻達する寸前までいっていただけあり、むくむくと活力が戻ってくる。それを認めてから、軽く腰を揺すってみた。 「痛いか……?」  探るような問いに、辰史はふるふると首を横に振った。 「なんか、凄い圧迫感、っていうか……詰まってるっていうか」 「ああ、繋がってるな」  緩やかに腰を揺らしながら、淡く笑みを浮かべる。 「俺たち、ひとつになってるな」  そう言うと、ハッと笑い声を上げながらも辰史の頬が染まるのを見逃さなかった。 「なんだそれ……っ」  クスクスと笑うと、体の力が抜ける。  そこから徐々に前後の動きを加えると、笑い声が喘ぎ声へと変化していった。 「ああっ! 駄目、イくっ……」  我慢させられていた分、辰史が達するのは早かった。  的確に良い場所を突いてくる腰の動きと連動する手での刺激に、五分ともたずに己を解放してしまう。それでも周一郎の動きは止まらず、放心する間も与えられずにまた辰史の股間は頭をもたげた。  今度は手を離し、自分の快感を追うことに集中する。 「ぁん、はあ……っ、や、あ、あ、あ、っ」  もうすっかり理性を捨てて喘ぎまくっている辰史の少し掠れ気味の声が、腰の奥の官能を刺激する。  何処もかしこも綺麗に整った肌に時折手を這わせながら腰を打ちつけ続け、ついに絶頂が近くなってきた。正直傷めている体ももう限界だった。今日はこの一発で終わるしかない。そう、自覚する。  辰史も二度目の絶頂を迎えようとしていた。 「んんっ、イくぅ……っ」  眉を寄せて喘ぐ上気した顔が、この上もなく色っぽい。それに誘われるまま、腰の動きが速まり、肩に載せている足ががくがくと震えた。白濁が腹を濡らし、周一郎のものが締め付けられる。動きが止まるのと達するのとが同時だった。  心地良い疲労感を久方ぶりに味わい、とろんと蕩けた表情の辰史にそっと唇を重ねた。しばらくされるがままに啄ばまれていたが、ずるりと中から出て行く感触に意識を取り戻したのか、恥ずかしそうにぷいと横を向いてしまう。  なるべく肌を触れ合わせたまま周一郎はゴムの口を結んで自分の服の上へ放ると、辰史の足を下ろして楽な姿勢にしてからもう一度キスをした。 「ごめん、ちょっと痛かったな」 「優しくしろって言ったのに……っ」  そっぽを向いたまま、首まで赤くなっている白い肌。  明日から一体どんな顔をして接したら良いのかと思わないでもなかったが、今このひと時は愛しい恋人と思おう。  周一郎が啄ばむようなキスを続けていると、ついに辰史も首に腕を回して応えたのだった。

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