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第8話 スイートルーム

「……自分が好きな人が、他の人と仲良くしてたら、嫉妬しないの?」 「いや。その人が幸せなら、いいよ。その日で気分が違うじゃん。誰に会いたいかは、それによる。」 アパートに残っていた、2人分のグラスを思い出す。 やっぱり、俺の心が狭いんだ。 「……ハル。日本で男のパートナーを持つのは大変だろ?」 「え?うん、まあ。親にも、友達にも言えないね。」 「愛し合う美しさを、オープンにできないのは辛いことだ。俺は、フランスに移住して良かったよ。」 いつの間にか、料理は最後のデザートになっていた。 「大人ならここからBARに行くけど、ハルはダメだよね。もう少し話したいから、俺の部屋にいかない?スイートにしてるから、広いよ。」 まだ、帰るには早い時間だった。 「うん。じゃあ、お邪魔します。」 ―――――――――――― 初めてスイートルームに入った。 まるでモデルルームの一室だった。 「ちょっとくらい、飲んでみようよ。日本人もフランス人も、そんなに体は違わないよ。同じ人間なんだから。」 ジョルジはサングリアを用意してくれた。 ジョルジは日本酒を準備する。 ジョルジはソファに座るハルマの隣に座った。 「乾杯。」 グラスを合わせて、サングリアを飲む。 ジュースみたいだ。 「あの……。男の恋人とは、どんな風に付き合ってるんですか……?」 「どんな風って?」 「……なんか、俺たちは……友達の延長みたいで……。それでいいんだけど、パートナーは妙に他の男からも好かれるんで、もやもやするんだ……。」 「いいじゃないか、モテるくらい素敵な恋人だなんて。それに、やきもちを焼いているハルも可愛いよ。」 「それは……まあ、恋愛なんて、そんなもんかとも思うけど……。」 「恋愛は、人を丸裸にする。取り繕えないし、簡単には割り切れない。自分を知るための、いい紙やすりみたいなものさ。仕事も恋愛も、全て、自分を知るための過程にすぎないよ。」 「………………。」 「よっぽど好きなんだね。」 ジョルジはフフッと笑った。 「ハルはまだ子どもなんだよ。悪いことをしたら、怒られると思ってる。悪いことを許せたときに人は大人になるんだ。」 悪いこと…… たとえば、リョウスケが先輩と浮気してたら…… ジョルジがハルマを押し倒した。 「な!ちょっと……!」 「ハル、ちょっとだけ俺とも遊ぼう。自分も完璧な人間なんかじゃない、ってわかると、相手に寛容になれるよ。」

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