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第15話 八神玲斗
所長が倒れて1ヶ月。
幸い大事には至らなかったが、しばらく入院し、療養もあって事務所には顔を出していない。
所長の仕事を引き継ぎ、全社員で協力して回す。
こっそり、紳士同盟を通じて、助っ人を頼んだ。
半年だけヘルプに入ることになった八神は、俺の一個下だ。
八神は弁護士だが、事務所を持たずにこうして知り合いの事務所にヘルプで入ってやりくりしているらしい。
八神は長身で前髪をおろし、雰囲気は韓国の俳優みたいだった。
ジャケットは着るがいつもハイネックかカットソーで、シャツは着なかった。
働き方の自由さと合っていた。
八神が来ると、女性の職員はにわかに色めきたった。
歓迎会が開かれ、年配の女性がプライベートについて根掘り葉掘り聞く。
これはセクハラではない。
未婚女性が直接聞づらいことを代わりに聞いてあげて、彼氏募集中の女性陣にアシストしているのだ。
彼の好みを知っている俺からすれば、逆に申し訳ない気持ちだ。
紳士同盟から紹介され、所長に会わせる前に、俺は一度彼と会っていた。
場所は居酒屋だった。
仕事の出来については実績があるから問題ではなかった。
「はじめまして。八神玲斗:(やがみれいと)です。」
彼は微笑みながら自己紹介する。
優しそうな雰囲気だ。
いや、きっと優しいだろう。
「高村響:(たかむらひびき)です。忙しいところ、来てくれてありがとうございます。」
座るよう促す。
八神は軽く会釈をして座った。
飲み物とフードを選んで頼む。
とりあえず二人ともビールだ。
「お酒は好きですか?」
八神はお酒のメニューに興味が無さそうだった。
飲めないのかもしれない。
「強いお酒はダメでして、付き合いでビール、ワインなら……という感じですね。男なのに、お酒がダメなんて情けないです。」
「見た目が強そうですからね。男社会に酒はつきものですから、付き合いも大変でしょう。」
「ええ。身長があるんで強く見られがちですが、ウイスキーなんてアルコール消毒液にしか感じないです。」
八神は笑って言った。
「響さんはお酒は飲みますか?」
「無駄に強くて、なかなか酔わないんです。燃費が悪いですよね。だから、逆に飲む必要がなくて。結局、私も付き合う程度です。」
ビールが来たので、乾杯する。
「八神さんは、紳士同盟にいつから入ったんですか?」
「僕は3年前です。大学時代に自分がゲイだと気づいて、色々迷っていたのですが、働き始めてまもなく、そういう人が集まりやすいバーに顔を出したんです。すごく過ごしやすくて。そこのお客さんから紹介を受けました。」
「スムーズでしたね。」
「ええ、まあ。自分が自分を受け入れるのが早かったので。響さんは?」
「私は、10代の頃から顔を出してました。その時は、まだ自分は女の子でも大丈夫かと思っていましたが、付き合ってみたら、ちょっと無理かな、と。大学時代から本格的に参加しました。」
「大先輩ですね。」
「いえいえ。こんなところで先輩風を吹かせるつもりはありませんよ。」
苦笑いしか出ない。
「……響さんみたいな方が先輩なのは、僕としては良かったですけど……。」
八神は少し恥ずかしそうに言った。
紳士同盟には、暗黙のルールがある。
頼み事は快く引き受ける。
金銭等のやりとりは完全にお互いの自己責任。
そして、頼み事を引き受けた側の性的欲求を、依頼した側が満たしてやるということだ。
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