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第16話 八神のお願い

頼み事を引き受ける側に性的欲求がある場合のみ、お互いに話し合って、依頼する側が善処する。 単にお互いセックスをする場合もあるし、彼氏作りを協力する場合もある。 「八神さんの希望は何ですか?」 この事前面談は、その話をするためなのだ。 「恥ずかしながら、大学時代、ちょっとだけ付き合った人が、最初で最後なのです。本当は、恋人が欲しいのですが、なかなか難しくて……。できれば、この期間だけでも、擬似恋愛がしたいです。」 八神は、少し顔が赤らんだ。 「わかりました。ただ……私には紹介できる人がいなくて……。選択肢がなくてすみませんが、私がお相手することになります。好みもあるでしょうに、申し訳ありません。」 自分の依頼の時は、自分で対処するようにしていた。 誰かにお願いして、揉め事になったら大変だからだ。 「あ!いえ、響さんのような素敵な方に付き合っていただくなんて、むしろ身に余ることです。こちらこそ、よろしくお願いします。」 八神はそう言って笑顔を浮かべた。 こうして、半年間、俺と八神は恋人ごっこをすることになった。 ―――――――――――― 八神の仕事は丁寧で正確だった。 その几帳面さはあらゆるところに出ていて、文字は整っているし、物は整理整頓され、スケジュールも狂うことがなかった。 ある日の終業後、八神のマンションに立ち寄った。 部屋はかなりきれいにされていた。 ミニマリストでもあるそうだ。 寝室に招かれ、ベッドに座る。 キスをすると、八神の口はミントの香りがした。 直前にちゃんと歯磨きをしているなんて、潔癖もあるかもしれない。 甘えるような唇の動きは可愛らしい。 強く抱きしめて、より唇を密着させると、八神の口から甘いため息が漏れた。 少し舌を絡めると八神は、あっ……と言って唇を離した。 「す、すみません……慣れてなくて……。」 八神が恐縮する。 「八神さんのペースで大丈夫ですよ。半年、ありますし。」 「はい……。」 今日はセックスには至らなさそうだ。 少しホッとした。 紳士同盟のルールとはいえ、湊とのことを考えないわけではいない。 湊なら、理解はしてくれるだろう。 そうは言っても、やっぱり恋人が他の人と寝ていたら……普通なら嫌だろう。 「響さん……。」 「はい。」 「二人の時は、下の名前を呼び捨てにしてほしいです。あとは、敬語じゃない方がいいです。」 「じゃあ、そうします。敬語の方は徐々に……。」 「ありがとうございます。」 八神はうっすら微笑んだ。 「あの、夕食、食べて行きませんか?」 「じゃあ、お言葉に甘えて。」 八神はようやく笑顔になった。 八神はそそくさとキッチンに向かって行った。

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