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第28話 稲田和紗
アルバイトは、居酒屋にした。
やっぱり割高なバイト代が魅力的だった。
俺のがさつな雰囲気からしても、ただのファミレスよりも似合っているだろう。
最初に仕事を教えてくれた先輩は、稲田和紗 。
俺と同じ大学で、心理系の勉強をしている2年生だ。
いわゆるシュッとしてる系で、ちょっとチャラい。
よく女の人から話しかけられて楽しく話をしている。
モテモテだ。
俺は和紗から、女子にモテる方法を学ぶことにした。
ハルマは本命だから不動だとして、柏木先輩はエロすぎて俺がおかしくなる。
柏木先輩に依存しないように、やっぱり女の子へのモテも意識すべきだ。
仕事には慣れてきたので、和紗にモテのコツを聞いてみた。
「コツ?何もしてないけど……。せめていうなら、自分が楽しまないと……って感じかな?」
自分がかぁ……。
女の子が相手だと、楽しませなきゃ、って考えすぎなのかもしれない。
「リョウスケ君は、彼女はいたことあるの?」
「ないんです……。」
「そうは見えないんだけどね。なんか、むしろ慣れてる感じがあるのはどうしてなんだろ?」
和紗先輩は案外鋭いかもしれない。
「逆に、”俺はモテモテなんだ!”ってくらい、堂々とするのはどうかな?アイドルってそうじゃん?世界中の女が俺を好きなんだ!くらいのオーラが必要だよね?」
なるほど、そういう考え方もあるか。
世界中の女が俺を好き……
……
…………
………………
いや、全然リアリティねぇわ。
ハルマだったら、可愛がられて貢がれそう。
アイドルっぽいな。
柏木先輩も、本気出したらハーレム作れそう。
響さんは、どんなにモテても本命一筋っぽいな。
俺は、一番女っ気ないのに、女も好きなんだよな……。
不公平だ。
和紗のアドバイス通り接客するが、やっぱり俺はただの店員の一人だ。
和紗のように、お客さんの輪に入る雰囲気は出せない。
帰りがけ、和紗は女の子から連絡先をもらっていた。
そんなこと、本当にあるんだ……。
心底羨ましい……。
ただ、和紗はもう彼女がいる。
そういうご新規さんはどうするんだろ?
今カノと別れた時用のストックだろうか?
――数日後――
「この間、俺、連絡先もらったじゃん……。」
「ああ、もらってましたね。」
「ちょっといいかな、って思って、デートしたんだ。」
彼女いるのに?
何て奴だ。
「そしたらさ、しつこくなって来て、失敗したなって……。」
自業自得じゃん。
「あのさ、リョウスケ君、しばらく俺の彼氏役やってくれない?俺は実は同性愛者だったってことにすれば、あの子も諦めると思うんだ。」
何その発想。
初期のハルマじゃん。
ってか、そもそもソレ、俺が同性愛者ってこと前提ですよね?
俺の人格権への認識が適当すぎる。
「そんなのヤですよ。和紗さんが悪いのに、俺を巻き込まないでください。」
「この店によく来てる子で、リョウスケ君のこと、気になってる女の子がいるんだ。その子とつないであげるからさ、形だけでも協力して!お願い!」
女の子をつないでくれる……
つ、ついに!
俺の良さをわかってくれる子が!
「……わかりました……。本当に……ちゃんと女の子紹介してくださいよ……。」
俺は胸の高鳴りをひた隠して、和紗にそう言った。
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