29 / 48

第29話 嘘

その日のシフトが終わり着替えて店を出ると、先に帰ったはずの先輩が店の裏にいた。 女の子ともめている雰囲気だ。 まさか、例の子だろうか? 「あ!リョウスケ君!いいところに!」 和紗がこちらに気がついた。 「ほら!こいつが俺の……新しい彼氏。ごめんね、気持ちの整理がつかないまま、その気にさせて……。」 修羅場に居合わせてしまった。 もうこんな男、やめとけよと言いたい。 「それ、嘘でしょ?リョウスケさん、あなたもこんな人のために協力するのやめた方がいいわよ。」 先に言われた。 「妹があなたと付き合わないのは万々歳だけど、それならちゃんと遊びだったって認めなさいよ!じゃなきゃ、あの子はいつまでもあなたを好きかもしれないじゃない!」 お姉ちゃんが怒ってるのか。 いいお姉ちゃんだ。 言ってることも真っ当だし。 「でもね!ホント、俺はただ何回か二人でごはんに行っただけなんだ!キスもしてないし、触れてすらいない!たしかに、可愛いから『彼女だったらいいな』っては言ったけど、それで付き合ってると言われても……!」 マジか。 もう体の関係があるのかと思ってた。 「あの子は、今まで男の人と付き合ったことがないからわかんないのよ!だからね、あなたみたいな適当な男もいるって、わからせたいの!遊びだったって、言いなさいよ!」 先輩は地雷ちゃんを踏んだのだ。 だが仕方ない。 モテ男はこれくらい痛い目に遭って然るべきだ。 誠実な俺に彼女がいないんだから、これでギリ公平というものだ。 「リョ、リョウスケ君!ちょっと!」 和紗が後ろを向いて画像を見せてくる。 「この子、紹介するから……。」 可愛くて、おっぱいの大きい女の子の画像だ。 「絶対ですよ。」 「ああ!」 男の約束が交わされた。 「お姉さん、すみません。この人は本当に俺の恋人なんです。論より証拠で、見てもらった方が早いです。」 「見るって、何を?」 俺は和紗の腰をいきなり抱き寄せ、キスをした。 それはそれは、ねちっこくした。 どうせモテ男がファーストキスなわけない。 これくらいやんないとお姉ちゃんも納得しないだろう。 あと、自ら同性愛者だと嘘までついたんだから、男にこんだけやられたことに少しは傷つけ。 と、思ったが、和紗が驚いた様子だったのは最初だけで、案外すぐキスに順応した。 たしかに慌てたらバレてしまう。 本当に悪い奴だ。 唇を離して、お姉ちゃんの方を見る。 「嘘みたいだけど、嘘じゃないんです。もう、和紗は男じゃなきゃダメな体になったんで、勘弁してやってください。」 さらに嘘を上塗りしてやった。 お姉ちゃんはしばらく呆然としていたが、ひとまず納得して帰って行った。 「あ、ありがとうリョウスケ君……。彼女いないのに……キスは上手いんだね……。」 「きっと才能があるんですよ。紹介、忘れないでくださいね!じゃあ。」 そう挨拶して俺は帰った。

ともだちにシェアしよう!