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第29話 嘘
その日のシフトが終わり着替えて店を出ると、先に帰ったはずの先輩が店の裏にいた。
女の子ともめている雰囲気だ。
まさか、例の子だろうか?
「あ!リョウスケ君!いいところに!」
和紗がこちらに気がついた。
「ほら!こいつが俺の……新しい彼氏。ごめんね、気持ちの整理がつかないまま、その気にさせて……。」
修羅場に居合わせてしまった。
もうこんな男、やめとけよと言いたい。
「それ、嘘でしょ?リョウスケさん、あなたもこんな人のために協力するのやめた方がいいわよ。」
先に言われた。
「妹があなたと付き合わないのは万々歳だけど、それならちゃんと遊びだったって認めなさいよ!じゃなきゃ、あの子はいつまでもあなたを好きかもしれないじゃない!」
お姉ちゃんが怒ってるのか。
いいお姉ちゃんだ。
言ってることも真っ当だし。
「でもね!ホント、俺はただ何回か二人でごはんに行っただけなんだ!キスもしてないし、触れてすらいない!たしかに、可愛いから『彼女だったらいいな』っては言ったけど、それで付き合ってると言われても……!」
マジか。
もう体の関係があるのかと思ってた。
「あの子は、今まで男の人と付き合ったことがないからわかんないのよ!だからね、あなたみたいな適当な男もいるって、わからせたいの!遊びだったって、言いなさいよ!」
先輩は地雷ちゃんを踏んだのだ。
だが仕方ない。
モテ男はこれくらい痛い目に遭って然るべきだ。
誠実な俺に彼女がいないんだから、これでギリ公平というものだ。
「リョ、リョウスケ君!ちょっと!」
和紗が後ろを向いて画像を見せてくる。
「この子、紹介するから……。」
可愛くて、おっぱいの大きい女の子の画像だ。
「絶対ですよ。」
「ああ!」
男の約束が交わされた。
「お姉さん、すみません。この人は本当に俺の恋人なんです。論より証拠で、見てもらった方が早いです。」
「見るって、何を?」
俺は和紗の腰をいきなり抱き寄せ、キスをした。
それはそれは、ねちっこくした。
どうせモテ男がファーストキスなわけない。
これくらいやんないとお姉ちゃんも納得しないだろう。
あと、自ら同性愛者だと嘘までついたんだから、男にこんだけやられたことに少しは傷つけ。
と、思ったが、和紗が驚いた様子だったのは最初だけで、案外すぐキスに順応した。
たしかに慌てたらバレてしまう。
本当に悪い奴だ。
唇を離して、お姉ちゃんの方を見る。
「嘘みたいだけど、嘘じゃないんです。もう、和紗は男じゃなきゃダメな体になったんで、勘弁してやってください。」
さらに嘘を上塗りしてやった。
お姉ちゃんはしばらく呆然としていたが、ひとまず納得して帰って行った。
「あ、ありがとうリョウスケ君……。彼女いないのに……キスは上手いんだね……。」
「きっと才能があるんですよ。紹介、忘れないでくださいね!じゃあ。」
そう挨拶して俺は帰った。
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