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第31話 手錠

あれから、柏木先輩と連絡をとっていなかった。 バレたのか、バレてないのか……。 俺から連絡するのは白々しくてできなかった。 とはいえ、気にはなる。 バイトの帰り道に先輩のマンションがある。 いっそ、寄ってみることにした。 ダメならダメで。 響さんもいるかもしれないけど、いいだろう。 コンビニでスイーツを買う。 気持ち、手土産だ。 チャイムを鳴らす。 インターホン越しに返事がある。 先輩の声だ。 「リョウスケですけど……。」 名乗ると、すぐドアが開いた。 「……どうしたの?」 先輩の様子は普通に見えた。 「え、あ……。あれから元気かな、って思って……。」 それはそれで本心だった。 俺のこともそうだけど、響さんとどうなっているのかも気になっていた。 「……心配してくれてるんだ。ありがと。」 意外にも、お礼を言われた。 「良かったら、これ食べてください。響さんのもあるんで……。」 スイーツを差し出す。 「どうも。まあ、上がってきなよ。どうせヒマでしょ?」 一言余計だけど、せっかくだからと中に入った。 「響さんは、まだ忙しいですか?」 「うん。今日も飲み会で、深夜帰りの予定だよ。」 それは寂しい……。 だから、あげてくれたのかな。 「なんか飲む?」 「あ、いや……。」 「ま、これくらいならいいでしょ?」 度数低めのチューハイを出される。 先輩はビールを飲むらしい。 先輩……酒で寂しさを紛らわせすぎじゃないだろうか。 乾杯をして、飲み始める。 「あの……ちょっと聞きたいんですけど、初心者向けのいいおもちゃ……ありますか?」 「……何、いきなり。」 俺は和紗とのあれこれを話した。 大学が同じだから、和紗の名前は伏せた。 あと、女の子を紹介してくれるくだりはばっさりカットした。 「へー。目覚めさせたんだ。罪だね。」 先輩はにやにやして言った。 「ちょっと……やりすぎました……。でも、まあ、そのまま男が好きになるとは限らないし……。」 「じゃあ、こっちきて。」 寝室に呼ばれる。 たしか、クローゼットにエッチなおもちゃがあるんだ。 デジャブだけど、もう俺は高校生じゃないからまあきっと大丈夫だ。 なんか、急に大人になった気がする。 先輩がクローゼットから箱を取り出す。 「いいよ、好きに見て。」 俺はカーペットに置かれた箱を開けて、眺めた。 一つ二つ手にとった時だった。 カシャ と音がした。 見ると、俺は手錠をかけられていた。 「え?」 事態が飲み込めないうちに、アイマスクをかけられた。 「ちょ……!」 アイマスクを取ろうとしたら、手錠を引っ張られ、立ち上がらせられる。 よろけた勢いで、さらに押される。 ベッドに押し倒されたようだ。 「せ、先輩……?」 「うっすらとした記憶なんだけどさ……あの日、泥酔した勢いで、目隠し拘束プレイをした気がするんだよね。」 「……そ、そうなんですね……。」 「まさか、お前が相手だった?」 「さ、さあ……。響さんの可能性はないんですか……?」 「記憶がないのに響に聞くのは失礼かなって思ってさ……先にお前に聞くよ。」 いや、確信犯でしょ。 その怒りを含んだ声。 お前って呼んでる時点で、俺だって思ってる。

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