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第5話 息が合わないマッチョ

天然マッチョ:『叶』 毒舌ガリガリ:「鏡也」 『はい、では今日も一緒にトレーニング頑張りましょうね!!』 叶の大きくて元気な声がトレーニングルームに響く。 叶と出会った頃はトレーニング初心者だったが、今はベンチプレスなら10kg、 スクワットとデッドリフトなら20kgの重さがあるプレートをつけて持ち上げられるようになってきた。 そもそも、プレートをつけるバー自体が20kgあるので、ヒョロガリの俺からするとかなりの成長だ。 『今日もセット数と負荷…えっと、重さは同じでいきましょう!』 「了解。よし、まずはベンチプレスからしようかな」 『ちゃんと呼吸も忘れずにしてくださいね!』 「挙げるときに吐く…ね」 『はい!!吐きながら力を入れるイメージですよ〜』 叶はトレーニングのサポートをするために、仰向けに寝転ぶ俺の頭付近に立っている。 サポートを受けつつ、ベンチプレスを始める。 「(よいしょ…んん…)」 慣れてきたとはいえ、30kgを持ち上げるのは重たい。 気合いを入れて繰り返す。 『ふん!!!はぁ〜』 「…?」 『んん…。ふぅ』 「…あのさ、なんで息止めてるの?」 『え?俺がですか?鏡也さんじゃなくて?』 なぜか叶はトレーニングをしていないのに、俺が力を入れている間、息を止めている。 「うん、止めてる。俺より疲れてるじゃん」 息を止めてる自覚がないのか、目を丸くしている。 「ふはっ。誰にも言われたことなかった?」 『え、はい…。なんか恥ずかしいっすね。いつも教えたり、サポートに入るのも、自分がするのと同じぐらい疲れるもんなんだなーって思ってたんですけど…』 「いや、それは自分が息を止めてるからじゃん、んはは」 ベンチプレスをしているとき、息を止めて一緒に力んでいる叶の顔見えるから笑いそうになって力が抜けそうになる。 次からは気をつけると張り切っていたので、軽く返事をして2セット目のベンチプレスを試みる。 『ふぅー』 「ん?」 『はぁぁー』 息を、吐いている。 間違ってはないのだが、間違っている。 「ちょっとストップ。なんでそんなに頑張って息吐いてるの?」 『な、なんか、意識すると難しくないですか…?』 そもそも、バーの上げ下げに合わせて呼吸をしようとして、自分自身が行う本来の呼吸のペースではないから難しくて当然だろう。 「俺に合わせて息を吸ったり吐いたりする必要ないんだから」 『あ、そっかぁ…』 なぜか少し不安そうに見える。 「できるできる。叶は自然に呼吸していたら良いんだから」 『そうですよね!よっし!!頑張ります!!!』 「……うん、そうだな。一緒に頑張ろうな」 『はい!!!』 いや、頑張るのはこっちで、お前じゃないと言いかけたが、口に出さずに心の中でツッコんでおいた。

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